老舗から専門店まで。神田駅の名店とつくった駅弁はまさにドリームな仕上がりだった【銀座線ドリーム駅弁】

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書いたひと:下関マグロ
山口県出身。東京都台東区在住。東京の街歩き、食べ歩きなどを中心に執筆活動をしているフリーライター。近著には『歩考力』(ナショナル出版)、『町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう』(立東舎/共著)などがある。

神田駅の "ドリーム駅弁"をつくるよ

駅弁というと、全国各地いろいろな駅で売られているけれど、地下鉄の駅では駅弁を売っていない。というわけで、あるはずのない駅弁をつくっちゃおうっていうのがこの企画。今回は銀座線神田駅のドリーム駅弁をつくります。

銀座線のホームで流れる発車メロディーがいろいろな駅で設定されているけれど、なかでも印象的なのが、神田駅の「お祭りマンボ」。今回のドリーム駅弁が神田駅だというメールをもらったときにすぐこのメロディーが頭で鳴ったほど。

神田駅といえば、周辺には会社が多く、お昼時は、多くのビジネスパーソンたちがランチを求めて多く歩いている町。それだけに、老舗から新店までバラエティに富んでいる。

そんなわけで、今回もこの曲げわっぱに神田駅周辺のお店から提供していただいた食材を詰めて、ドリーム駅弁をつくるぞ。

この曲げわっぱのなかに、名店のおいしいものを詰めこんでいくよ

この曲げわっぱのなかに、名店のおいしいものを詰めこんでいくよ

すでにこのシリーズを読んだ方はわかるだろうけれど、提供してもらうお店は3店舗。そこからいろいろなおかずをご提供いただくのだが、今回のドリーム駅弁はこれまでのものとは少し違う。あるテーマのもとにおかずを提供してもらって、さらにご飯も各お店から少しずついただく。いわば、名店の小さめのお弁当が3つ、1つのお弁当箱に詰まったドリームな駅弁というのが、今回の趣向だ。

くじら料理専門店の「くじらのお宿 一乃谷」

まず、うかがったのは、こちらのお店。くじら料理専門店の「くじらのお宿 一乃谷」。

仙台で23年間営業し、2010年に神田に移転してきた一乃谷。

仙台で23年間営業し、2010年に神田に移転してきた一乃谷。

僕は今年59歳になったのだけれど、くじら料理といえば、小学生の時の給食の定番メニューだった。そのため味もよく知っているが、僕より下の世代の人にはあまりなじみがないようだ。

迎えてくれたのはこちらの二代目。

くじらのお宿 一乃谷二代目

二代目の谷広樹さんが迎えてくれた。いい笑顔だ。

──今の若い人たちはくじら料理って知らない人が多いと思ってましたが、ランチのお客さんには若い人も多いんですね。

「はい、おかげさまで、近くの学校の学生さんたちも来てくれています。くじらステーキが人気メニューです」

──僕などもそうですが、昔は給食でよく食べていたので、懐かしいというお客さんも多いのでは?

「そうですね。でも、昔、給食で出てたくじらは、今とは種類が違うんです。昔は硬くて、独特の臭みがあったんですけど、今のものはそんなことないんですよ」

──なるほど、出来上がりに期待ですね。それでは、調理に取り掛かっていただきましょうか。

「はい。こちらがくじら肉です」

見た目はまるで牛肉のよう。くじら肉は入荷してから調理するまで熟成させる

見た目はまるで牛肉のよう。くじら肉は入荷してから調理するまで熟成させる

──初代はお父様なんですよね。お料理はお父様から教わったんですか

「そうです。その前に旅館の厨房で働いていて、日本料理はひと通り習いました。先代は今日は仙台に行っています。今度、仙台にもお店をオープンするので、本日はそちらへ行っているんですよ」

──くじらのお肉は熟成させているんですよね。

「はい、初代が考案した熟成方法で、お肉が格段に柔らかくなるんです」

料理

料理をつくってもらっている間、店内に飾られている、くじらに関するいろいろなものを見て回る。こちらはくじらのヒゲだそうだ。こっそりさわってみると、けっこう硬かった。

くじらのヒゲ

このヒゲはシロナガスクジラのもの。現在、シロナガスクジラは捕鯨できないので、今では新たにヒゲを手に入れることはできないという

「はい、できましたよ」と谷さん。ご飯ものとおかずのワンセットをいただいていく。

いい香りが漂ってきます。中身はまだ内緒。

いい香りが漂ってきます。中身はまだ内緒。

創業は1907年、夏目漱石も食べたものとは?「松栄亭」

次にうかがったお店は、創業が1907年(明治40年)というから、開業から100年以上が経過している。もともと東京大学の教授だったケーベル氏のお抱え料理人だった堀口岩吉氏が開業した老舗の洋食屋、「松栄亭」だ。開業時は靖国通り沿いにお店があったが、関東大震災後に今の場所に移った。

街の洋食屋さんというたたずまいの松栄亭さん

街の洋食屋さんというたたずまいの松栄亭さん

店主の堀口毅さんが迎えてくれた。

松栄亭 堀口さん

堀口さんは4代目だそうだ。笑顔にも老舗の重みを感じる。

──堀口さんは神田生まれの神田育ちということですね、神田という町はどういうところなんでしょうか?

「神田はもともと下町ですよ。下町っていうのは、ちゃんとした意味で言うと城下町のことね。店のちょっとでたところに外堀通りっていうのがあるんですけど、そこまでが江戸城の外堀、城内ってことなんです」

──生まれも育ちも神田、さすがに博学ですね。

「いや、これね、ぜんぶブラタモリでやってました(笑)。あれはいい番組よ(笑)」

──神田駅の印象ってどうでしょう?

「今は工事してきれいになってますけれど、僕らが子供のころは暗がりがあって、けっこう怖い場所でしたね。それから、駅地下にダンスホールなんかもあって。子供だから行かなかったですけど、今とはかなり違った昭和の風景でしたよ」

──このあたりは空襲では焼けなかったんですよね。

「御茶ノ水駅のところにニコライ堂ってキリスト教の大聖堂があるんですが、上から見ると十字架に見えるそうで、そのせいかどうかわかりませんが、とにかく空襲をまぬがれたんですね」

それでは、お料理をしてもらいましょうか。

振っている鍋のなかがちょっと見えるけど、気にしない気にしない

振っている鍋のなかがちょっと見えるけど、気にしない気にしない

──ケーベル教授の料理人だった初代のお料理を夏目漱石も食べたそうですね。

「ええ、じいさんによれば、夏目漱石さんは、店にも一回来たってことですよ」

──そういえば、松田優作さんが主演されていたテレビドラマの『探偵物語』でも、このお店が出てきたそうですね。

「ええ。そこの写真、建て替える前のうちのなんですけど、左隣にちょっとだけ見える同和病院という建物があるでしょ。そこの屋上が『探偵物語』で、松田優作さんのいる事務所という設定だったんですよ。だから、このあたりでしょっちゅうロケしていましたし、うちで食事のシーンを撮影してました」

以前の松栄亭さん。隣に少しだけ見える同和病院が『探偵物語』のロケ地。

以前の松栄亭さん。隣に少しだけ見える同和病院が『探偵物語』のロケ地。

「はい、お料理ができましたよ」

スパイシーな香りが店内に広がっております。中身はのちほど

スパイシーな香りが店内に広がっております。中身はのちほど

創業は天保元年、老舗のあんこう鍋専門店「いせ源」

1930年(昭和5年)に建てられた店舗は、空襲の被害を受けることもなく今日を迎えている

1930年(昭和5年)に建てられた店舗は、空襲の被害を受けることもなく今日を迎えている

今回のお店のなかでは最も老舗、あんこうで有名な「いせ源」さんにやってきた。創業が1830年、天保元年。初代は京橋で創業、明治時代になって二代目がこの地へ店を移した。一時は20種類以上の鍋を出していたのだが、後にあんこう料理専門店となったそうだ。

7代目の立川博之さん

7代目の立川博之さんが迎えてくれた。

──もともと、いろいろな鍋を出していたのが、なぜあんこう鍋の専門店になったんでしょうか

「あんこう鍋というとそれまでは、味噌仕立てが主流だったんですが、神田の人々の舌に合うように醤油仕立てにしたら、大人気となったんです。それで、私の曾祖父で4代目の政蔵があんこう鍋専門店にしたんです」

それでは調理にかかっていただきましょうか。

あんこうの身を切っていく作業。とにかく大量です。

あんこうの身を切っていく作業。とにかく大量です。

玄関には古い写真が飾ってある。建物は今と同じだ。

古い写真

──この写真に7代目は?

「私はいないです。真ん中の子供2人、背の高い方が私の父ですね。4代目の政蔵が写ってますね」

店内にはガチャガチャがあった。そこからこんなものが出てくる。「げんちゃん」だ。

「げんちゃん」

──ご主人、これはなんですか

「あんこうというと、怖いイメージが多いじゃないですか。だから、もっとかわいいキャラクターをと思ってつくってもらったんです」

店内には古いものにあふれているけれど、7代目による新しい試みがあるのもなんだか楽しい。

そうこうするうちに7代目がお料理を運んで来てくれた。

これはまた器もいいかんじですねぇ。老舗の重みを感じます

これはまた器もいいかんじですねぇ。老舗の重みを感じます

うーん、期待が膨らむ。

というわけで、今回はそれぞれのお店から、ご飯ものとおかずという組み合わせでご用意いただいた。内容についてはもう少し待ってね。

それでは、神田駅の駅員さんに食べてもらいましょう!

今回ドリーム駅弁を食べていただくのはこちらの駅員さん。

左が小峯正幸さん、右が佐瀬弘行さん

左が小峯正幸さん、右が佐瀬弘行さん

小峯さんは57歳の助役さん、佐瀬さんは30歳の係員。改札やホームで働いている。

──神田駅でのお仕事はいかがですか?

佐瀬「最近は、JR線から銀座線で浅草に行かれる外国人のお客様が増えていまして、乗りかえ方法を聞かれることが多くなってきました」

──そういうときは、なんと答えられるのですか?

佐瀬「つたない英語なんですけど、プリーズ・ゴー・トゥ・トラックナンバー・ツー ですね、2番線で行けますって(笑)」

──お弁当に関する思い出ってなにかありますか?

小峯「小学校の最初のころは弁当で、冬場などはお弁当を温めてくれる機械があって、朝、みんなが自分の弁当をその棚に入れておくんですよ。そうするとお昼には温かいものが食べられるんですよ」

佐瀬「僕も高校生のころ、お弁当でした。サッカーをやっていたこともあって、母親が弁当を2つ持たせてくれました」

──ところで、おふたりともお腹はすいてますか

小峯、佐瀬「すいてます!」

──それではさっそくお弁当のふたを開けてください。

ふたを開けるとお料理のいい香りが漂ってきて思わず笑顔がこぼれる

ふたを開けるとお料理のいい香りが漂ってきて思わず笑顔がこぼれる

ふたを開けるとお料理のいい香りが漂ってきて思わず笑顔がこぼれる

こちらが、神田駅のドリーム弁当。各それぞれのお店には、共通でおかずに「からあげ」、ご飯ものをいただいた。

左のゾーンより、『松栄亭』『くじらのお宿 一乃谷』『いせ源』

左のゾーンより、『松栄亭』『くじらのお宿 一乃谷』『いせ源』

まずは、気になったものから、ファーストバイトしていただきましょうか。

揚げ物と言われても、なにが揚げられているのかもちろんわからず、おそるおそる......

揚げ物と言われても、なにが揚げられているのかもちろんわからず、おそるおそる......

小峯さんがいせ源のあんこうのからあげ、佐瀬さんが松栄亭の洋風かき揚げをピックアップ。いったいなんの揚げ物であるかは伝えていない

小峯さんがいせ源のあんこうのからあげ、佐瀬さんが松栄亭の洋風かき揚げをピックアップ。いったいなんの揚げ物であるかは伝えていない

小峯「フグのからあげ、あ、いや、これはあんこうか」

佐瀬「あんこうというといせ源さんですね。お客様から、お店への道順をよく聞かれます」

──佐瀬さんが食べているのはなんだかわかりますか?

佐瀬「おいしいですけど、さっぱりわかりません」

小峯「ああ、これ? うーん、わからない」

 2人ともわからないとおっしゃるこちらの揚げ物

2人ともわからないとおっしゃるこちらの揚げ物

──松栄亭さんという洋食屋さんに行かれたことはありますか?

小峯「ないですね...」
佐瀬「知ってはいますが...」

ならば、わからないはず。これは、松栄亭さんのオリジナルメニューの「洋風かき揚げ」。豚細切り肉、卵、タマネギ、小麦粉をまぜたものを自家製のラードで時間をかけて揚げたものだ。

提供まで15分かかる「洋風かき揚げ」。自家製ラードでじっくり揚げられる。

提供まで15分かかる「洋風かき揚げ」。自家製ラードでじっくり揚げられる。

夏目漱石も食べたという「洋風かき揚げ」は松栄亭のオリジナルメニューで、4代目のご主人も最初に食べたときは、「甘くないお菓子かと思ったよ」とのこと。

ここで各メニューを改めてお知らせした。

お弁当の中身

左端の松栄亭さんゾーンには、洋風かき揚げ、ポテトサラダ、キャベツの千切り、パセリ、ドライカレー。
真ん中のくじらのお宿一乃谷さんのゾーンは、くじらの竜田揚げ、野菜、くじら飯。
左側のいせ源さんゾーンには、あんこうのからあげ、あんこうの照焼き、あんこう鍋のおじや。

──小峯さんは給食でくじらの竜田揚げ、食べたことあるんじゃないですか

小峯「はい、ありますよ。でも、これは昔に比べておいしいですね」

味付けがこれまたいいね、と小峯さん

味付けがこれまたいいね、と小峯さん

──今はナガスクジラを使っていて、お肉も熟成させているので、やわらかくておいしいんだそうですよ。

小峯「くじらのイメージが変わりましたねえ」

──佐瀬さん、いかがですか、くじらを食べるのははじめてじゃないですか?

佐瀬「私は転職して東京メトロに入ったのですが、前職が魚屋だったんですよ。そこで、くじらベーコンなども扱っていたんですが、食べるのははじめてです。おいしいですね」

くじらは生まれてはじめて食べたという佐瀬さん、「おいしいですね」をいただいた

くじらは生まれてはじめて食べたという佐瀬さん、「おいしいですね」をいただいた

くじら飯は、まず、くじらの皮でとった出汁でご飯を炊いて、そこに、くじらのミンチを合わせるのだそう。

感想を言い合いながらもかなりのスピードで食べ進めるおふたり

感想を言い合いながらもかなりのスピードで食べ進めるおふたり

──おふたりのいちばんのお気に入りを教えてください。

小峯「くじらの竜田揚げですね」

お肉がやわらかく、臭みのない一乃谷さんの竜田揚げ

お肉がやわらかく、臭みのない一乃谷さんの竜田揚げ

佐瀬「僕は、あんこう鍋のおじやです」

佐瀬「僕は、あんこう鍋のおじやです」

実は、この一杯のためにあんこう鍋をつくって、そこから出た出汁でつくったおじやなのだ。ふだんのおじやと味を変えないという、老舗のプライドだ。

あっという間に完食。

あっという間に完食。

──神田駅のドリーム駅弁を食べた感想をお願いします。

佐瀬「お客様にお店の場所を聞かれたときに今回の経験を活かして対応したいですね、味のこともお伝えしたり」
小峯「この企画、またやってくださいよ!」

いやぁ、神田駅の駅員さんの気持ちのいい食べっぷりに感激。こうやって食べてもらえると、ドリーム駅弁もつくり甲斐があるっていうものだね。

さて、次はどの駅に行こうか。

取材協力
「くじらのお宿 一乃谷」
東京都千代田区内神田2-7-6 ゆまにビル
電話03-3254-6096

「松栄亭」
東京都千代田区神田淡路町2-8
電話03-3251-5511

「いせ源」
東京都千代田区神田須田町1-11-1
電話03-3251-1229

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