【たった2編成だけ!】90年前のデザインで走る、銀座線1000系「特別仕様車」のヒミツ【銀座線デザイン探訪】

今、銀座線には、四つ葉のクローバーのように、逢えたらラッキーな電車が走っていることをご存知ですか? 全部で40編成ある銀座線の車両のうち、わずか2編成だけが「特別仕様車」なんです。

1000系量産車と1000系「特別仕様車」の比較

左が1000系量産車、右が1000系特別仕様車

上記画像の右側が1000系特別仕様車。左側の量産車とくらべてみると、ライトの数やカラーリングなど違いがあることがわかりますね。そんな1000系特別仕様車はいったいどうやって生まれたのでしょうか!?

東京メトロ車両部松本耕輔設計課長

早速、1000系特別仕様車の生みの親、東京メトロ車両部の松本耕輔設計課長に話を聞きに来ました。松本さんは銀座線1000系をはじめとした、東京メトロの車両における設計・開発のディレクターとしてのポジションを担っています。今回は、1000系特別仕様車にかけた思いをたっぷり話してもらいました。

偶然が生んだ特別仕様車!

──1000系特別仕様車は、なぜつくられたのでしょうか?

特別仕様車が誕生するきっかけは、2012年から導入を開始した1000系量産車です。1000系量産車は、90年前に銀座線*1が開業した当時から40年ほど運行していた1000形をモチーフにして制作しています。1000系量産車は、銀座線リニューアルの一環で、「伝統×先端の融合」がテーマ。そこで、「見た目はレトロだが、中身は最先端の車両」というコンセプトで銀座線の初代車両である1000形をオマージュしてつくったところ、お客様に大変ご好評をいただきました。

*1「銀座線」の名称は1953年から使用開始

初代車両である1000形

地下鉄博物館に保存、展示されている1000形

特に反響が大きかったのが、黄色に塗られた車体です。近年の東京メトロの車両は「無塗装」が基本でしたが、1000系は「色が付いた」ということで一般のお客様にも新型車両に変わったと気付いていただけたのではと思います。

当初、1000系は38編成つくる予定でした。しかし、さまざまな事情から、さらに2編成増やすことが決定。その際、社内で「1000系がお客様にあれだけ喜んでいただけたのなら、もっと喜んでもらえる車両をつくったらどうか?」という意見が出てきたんです。もともと、1000系は1000形をオマージュした車両ですから、その特別な車両をつくるとなった際に「いっそのこと、極限まで1000形に近づけてみたら...」となりました。

また、お客様から「全ての編成が同じ車両というのもどうか...」という意見をいただいたこともありました。
加えて、せっかくレトロな雰囲気にリニューアルしている駅もあるんだから、それに負けないような車両を! という思いもありました。それが特別仕様車が生まれたきっかけです。

特別仕様車5つの「こだわり」

1000系特別仕様車をつくるにあたって、絶対に実現させたいとこだわったポイントが5つあります。

こだわり1「木目調に仕上げた内装」

特別仕様車の内装は量産車と大きく違っています。まずは、壁や扉、そして座席に注目してみてください。

1000系量産車と1000系特別仕様車の内装比較

左から、1000形車両の内装、1000系量産車の内装、1000系特別仕様車の内装

量産車は白い壁、扉、そしてオレンジの座席でデザインされていますが、特別仕様車では壁や扉は木目調に、座席は緑色のモケット(表地)を張っていたりと大きく違っています。なぜなら特別仕様車では1000形の内装を再現しているからです。1000形のレトロ感がよみがえったデザインになっていることがわかりますね。

こだわり2「室内予備灯」

室内予備灯

こだわり2つめは、車内の「室内予備灯(補助用の照明)」です。これは地下鉄博物館に保存されている1000形から型を取って、その型をもとに新たに制作しました。先端技術であるLED灯をつかいながらも、切子風の模様を入れることで、レトロな雰囲気をだせたと思います。LED灯の光の色も当時の電球の色に近づけるように調整を行っているんですよ。

また、銀座線の車両は走行用の2本のレール横にある第3のレール(サードレール)から電気を集電する方法を採用していますが、以前、駅やポイントの近くなどで、このサードレールが途切れる度に電力供給の仕組み上、車内の照明(室内灯)が消えていたんです。その時に室内壁面に設置してある室内予備灯だけがほのかに点灯していました。

室内予備灯(点灯)

特別仕様車では、当時の1000形のように先頭車両のほうから段々チカッ、チカッと、照明が消えていく様子を電子的に制御して再現しています。つまり、実際に1000形の時代に照明が消えていた場所を車両が通ったタイミングで、1両ずつ順に、室内予備灯だけが灯った空間を演出しているのです。

こだわり3「手すりと吊手」

3つ目のこだわりは、真鍮の風合いを出した金属の手すりです。1000形のレトロな空気感を再現するために、インダストリアルで冷たい印象を与えるシルバーの手すりではなく、クラフト感のある手すりにしています。

真鍮の風合いを出した金属の手すり

真鍮の風合いを出すために、真鍮色のメッキ加工を行い、そこから手作業で黒い筋を付けました。さらにその上にクリア塗装をすることで、真鍮のように見えるようにしました。

実は本当に真鍮をつかおうかという話もありました。しかし、真鍮の場合、錆びてしまいます。そのサビがお客様の衣服等に付いてしまうリスクを避けるために、塗装だけで表現することにしたのです。サンプルを何十本と製作して、いちばん真鍮らしさが表現できた方法を選んでいます。

ドロップ型の吊手

左が1000形車両のリコ式吊手、右が1000系特別仕様車で再現されたリコ式吊手

そして、吊手にもこだわっています。あまり見かけない「涙型」になっているのですが、 これは「リコ式吊手」という1000形のときにつかわれていた吊手の形を再現しているんです。

この吊手は、つかわれていないときはバネで窓側に向かって収納されるという仕組みがありました。しかし、吊手がお客様にあたってお怪我をさせてしまう恐れがあることや、背の低いお客様にもご利用しやすいように、吊手は下に向かって下げる必要があるなどの理由で、形だけを再現することになりました。

こだわり4「製造者銘板・車号銘板」

製造者銘板・車号銘板にもこだわりました。これは、車両の製造会社と、製造年・車両番号が刻印されているもので、車内でご覧になったことがある方もいらっしゃるかと思います。

1000形と1000系特別仕様車の製造者銘板比較

左が1000形*2の製造者銘板、右が1000系特別仕様車の製造者銘板・車号銘板

「開通当時の車両1000形」では、製造者銘板のみ掲出されていましたが、1000系特別仕様車では、この製造者銘板に車号銘板を統合して銘板を掲出しています。右から書かれた旧字体の漢字がレトロ感を演出しています。

*2製造者銘板の記載内容
日本車輛會社⇒(現)日本車輌製造株式会社
昭和貳年⇒昭和2年(1000形)
平成貳拾八年⇒平成28年(1139編成)
平成貳拾玖年⇒平成29年(1140編成)

こだわり5「前部標識灯」

運転席の上部分にライトがひとつ

そして、5つ目のこだわりは「前部標識灯」です。列車の正面、運転席の上部分にライトがひとつついていることがわかりますか? この部分も1000形を意識してつくり上げました。

前部標識灯は完全オーダーメイド。地下鉄博物館に展示されている1000形を何度も確認して、できるだけイメージを近づける努力をしました。環境に配慮して前部標識灯は、LED灯を採用していますが、明るさだけでなく色温度を調整して、できるだけ1000形でつかわれていた白熱灯のフィラメントの色が出るようにしています。

1000系量産車と1000系特別仕様車の車体比較

向かって左の1000系量産車は前部標識灯が2つ、右の1000系特別仕様車は前部標識灯が1つになっている

そして、量産車では2灯だったものが、1灯になっているのも特徴です。本当は量産車でも1灯にするか検討していました。ただ1灯ですと、万が一、電球が切れてしまうとその役割を果たさなくなってしまいます。LEDを使用した前部標識灯の採用は前例がない取り組みだったので、営業に支障をきたすことがないよう、2灯になりました。量産車によってLED照明の信頼性が実証されたということもあって、特別仕様車は1灯化に踏み切ることができました。こういったこだわりを、地下鉄開通90周年記念イベントなどの際に、ご覧になる機会があれば、ぜひ見ていただきたいです。

──色にもこだわっているところが多いですよね?

松本耕輔設計課長

1000系の車体のカラーをつくるにあたっては、地下鉄博物館にある1000形と色見本の台帳を見比べて、再現しました。

1000系量産車と1000系特別仕様車の塗装比較

右が1000系特別仕様車。左の量産車とくらべてレモンイエローで塗装されてる部分が増えている

量産車も特別車も同じ色ではあるんですが、特別仕様車では、ドア周り、窓周りといった部分にまで塗装を施しています。

1000系特別仕様車の塗装

運転席のガラス下や側面の窓の上下など、1000形(左)にあった凹凸感を表現するためにシールが貼られている(右)

また、1000形で窓を補強する鋼材が入れられていたところには、その凹凸感を表現するためのシールを貼っています。可能な限り工業製品の雰囲気を出さないために、シルバーをはじめとした無垢な色が見えないようにしています。

室内灯の色味比較

左が4000ケルビン(通常時)で白っぽい光、右が2700ケルビン(イベント時)で赤みのある光

また、室内灯も蛍光灯色ではなく、温かい灯りのぬくもりが出るように色を調節しています。普段は4000ケルビンに設定し、白っぽい光になっていますが、イベント時などは2700ケルビンにすることで、赤みのある光へ調整することができるようにもなっています。

オトナの「遊び心」満載の1000系特別仕様車

松本耕輔設計課長

──特別仕様車を2編成だけつくる「苦労」とは?

車両自体は1000系の量産車をベースにしながら、どれだけ当時の1000形に近づけるかという戦いでしたね。同じ外見ではあるんですが、結構見えないところで変わっています。車体は同じでも、見直しをかけたところも多数ありますし、後から取り付けた部分の電気配線などは、1000系量産車とは違っています。1000系量産車を基本にして、ハイグレードな内装の車両をつくりました。

わずか2編成ですが、構想から完成までは、3年ほどかかっています。そのなかでも、「室内照明を順番に消灯させるシステム」だけは、絶対に譲れないものでした。かつての銀座線の象徴のようなものだったわけですから。

「わざと消灯させる仕組み」は、本来は車内の照明を一斉に消してしまうのがいちばん簡単なんです。でも、せっかくつくるならこだわりを持ってやりたいということで、1両ずつ消灯させる仕組みをつくっていきました。制作を依頼した取引先にも情熱を持った人が多くて、互いに支え合いながら実現しました。

──反響はいかがですか?

まず、鉄道好きな方からは高い評価をいただいていて、発表の際にもいろいろなところで大きく取り上げていただきました。鉄道業界の方に紹介した際にも、「ここまでやるんだ!」と驚かれていました。

さらにお客様も、ご乗車になると写真撮影される方が、たくさんいらっしゃいました。まず周りを見回して、驚いたり、楽しんでいただいている様子で、そんなお客様を見て、改めて「やってよかったなぁ」という気持ちになりました。

特別仕様車は原点回帰したこだわりの結晶!

──遊び心満載の1000系特別仕様車、「銀座線」の新たなシンボルですね?

東京メトロとしては「原点回帰」という点が大きいです。東洋初の地下鉄ということで、東京メトロにとっても銀座線は、シンボリックな路線であり、この特別仕様車はシンボリックな車両という位置づけをしています。「地下鉄開通当初の思いを忘れないようにしよう」という気持ちもあります。

1000系特別仕様車

銀座線の新たなシンボル1000系特別仕様車

お客様には、まず車両の雰囲気を楽しんでほしいと思います。そして、2編成しかないこの車両に乗れたことを、「嬉しい」と感じていただきたいですね。

1000系特別仕様車は思った以上に工夫がほどこされたプレミアムな車両でした。しかも出逢えるのは、およそ「20分の1」の確率! きっと、見られただけでもワクワクできますし、乗れたら「今日はハッピー!」と思えることでしょう。もしも銀座線のホームで列車を待っていて、暗闇の向こうから1灯の光が見えてきたら、それはラッキーな時間のはじまりです。そして、昔のリコ式吊手をモチーフにしたレトロな吊手につかまってみてください。特別な車両で安全に、目的地へとお届けします。

望月崇史(もちづきたかふみ)

書いたひと:望月崇史(もちづきたかふみ)
1975年静岡県生まれ。放送作家。 ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは足かけ15年、およそ4500個! 放送の合間に、ひたすら好きな鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。 ラジオの鉄道特番出演、新聞・雑誌の駅弁特集でも紹介。 現在、ニッポン放送のウェブサイトで「ライター望月の駅弁膝栗毛」を連載中。
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