メトロニュース 2017年3月号
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9東京メトロの駅を舞台に妄想恋愛!?デートへの淡い期待を抱いた中野坂上駅の終電 東京西部に住んでいた数年前、都心に住みたい、とふと思った。独身の20代の男がなんで郊外に住んでいるんだろう、と。部屋が狭くなっても、若いうちは都心に住み、夜な夜な飲み歩いたりするべきなんじゃないか。そうすれば、都会でキラキラしている美女たちとも、付き合ったりできるだろう…。失恋の痛みをうっすらとひきずっていた頃だった。 なぜか西新宿や代々木近辺で探しはじめた。不動産仲介店を通じ数軒見て回った後、10万円以内という自分の予算だと古くて狭い物件にしか住めず、なにか違うと思った。地下鉄が使えるという条件でエリアを変え探し直したところ、中野坂上近辺の物件を薦められた。 それまで、中野坂上になんのイメージもなかった。いくつか物件を見た後、一人で中野坂上近辺を歩いて回った。すると、特に目立つシンボルもないその街の魅力が段々と浮き上がってきた。空が広い―視界が開けている。地名の意味を実感した。地図で見ると新宿から近い場所で、電車やタクシー、なんなら自転車や徒歩でも都心のどこへでも行けそうな好立地だ。スーパー等日常生活に必要な店は充実している。自炊派の自分の用途に、合った街だった。 数日後、すぐには契約せず他のエリアもじっくり検討していた自分は、中野富士見町に住む友だちの家に行く用事があった。東京西部から新宿へ移動し、丸ノ内線へ。電車が中野坂上駅に入り減速しきった段階で乗り換えホームを目で探すと、すぐ横に「方南町方面行き」の電車が停まっていた。そのシームレスな便利さに、また心ひかれた。 終電で帰る際も、乗り換えの便利さの恩恵を受けた。そして、電車内に美人が沢山いると感じた。彼女たちとデートの一つでもできていない現状にもどかしさを感じつつも、明日こそはよくなるんじゃないかという希望のようなものが生まれ、それ自体がその頃の楽しさだった。感じる※この物語はフィクションであり、 実在の人物、団体などとは一切関係ありません。東京デート日和羽田圭介のはだ・けいすけ 1985年東京都生まれ。明治大学商学部卒業。2003年『黒冷水』で文藝賞を受賞しデビュー。2015年『スクラップ・アンド・ビルド』で芥川賞受賞。他の著書に『メタモルフォシス』『御不浄バトル』『隠し事』など。2016年11月、『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』を上梓。Vol.12(最終回)
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