メトロニュース 2017年4月号
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9感じる 東京の下町で生まれ、吉祥寺の大学にかよっていたおかげで、毎日のように都心を横断して通学することになった。今から三分の一世紀も昔の話である。 わが家からは当時、国鉄(今はJR)総武線の新小岩駅と営団地下鉄(こちらはもちろん東京メトロ)東西線の葛西駅が、ほぼ同じ距離だった。どちらかというと総武線のほうが古くさいイメージで、東西線はまだ新しい雰囲気が駅にも車輌にも残っていた。無理もない。東西線が華々しく開業したのは、ぼくの記憶に新しく、小学生のときのことなのだ。 でも毎日通学していると、ときたま猛烈に学校にいくのが嫌になる日があるんですよねえ。みなさんも通勤通学で発作的にホームの反対側の電車に飛び乗った経験はありませんか。 実はその手の朝がぼくには割と頻繁にあったのです。東西線葛西駅、西船橋方面行きのホームに電車が駆けこんでくる。気がつけばついふらふらとその電車に乗りこんでしまう。当然、そのまま東京と千葉の県境である江戸川を越えて、電車は走っていく。このあたりは地下ではないので、春の天気がいい日などは、ちょっとした小旅行のようで、実に気分がいい。 目的地は終点の西船橋駅。そのころは農地が半分、低い棟の商店街が半分といった実にのどかな雰囲気でした。駅の周辺を散歩し、書店をはしごして、喫茶店(カフェなんて誰も呼んでいなかった!)ですこし休む。そんななんでもないターミナル駅の散歩が、なぜかほっこりとして実に楽しかった記憶があるのです。あの頃から小松菜の畑は多かったなあ。 今ではとても立派になった西船橋の駅ビルとロータリーに、あの頃の記憶の地図を重ね合わせると、なんでもない街が懐かしさで染まります。あなたも、たまに日常を離れ、逆方向の電車に乗って、ちいさな旅をしてみませんか。メトロのある街で石田衣良西船橋で春のうららのピクニック第一回いしだ・いら 1960年東京都生まれ。成蹊大学卒業。1997年「池袋ウエストゲートパーク」で第36回オール讀物推理小説新人賞、2003年『4TEEN』で第129回直木賞を受賞。[メ-ルマガジン]石田衣良ブックト-ク『小説家と過ごす日曜日』http://ishidaira.com/book talk/ 毎月第2・4金曜日配信中!

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