メトロニュース2017年9月号
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9感じる 日本橋小伝馬町というと、まずテレビの連続時代劇を思いだすオールドファンも多いのではないだろうか。今ではすっかりすたれてしまったけれど、ぼくの子どものころは週に二、三本と時代劇がオンエアされていたものだ。 江戸の町として頻繁に登場する地名のベストスリーに、小伝馬町は入っていたのではないか。記憶によると人形町、新富町なんかとならんで、腕利きの岡っ引きが住む街の代表格だった気がする。無理もない。小伝馬町の伝馬は今でいう物流センターである。現在なら巨大倉庫にたくさんのトラックが集まるように、江戸時代は多くの馬をそろえ、日本各地に手紙や物資なんかを送りだしていたのだ。当然、馬の世話をする馬ばくろう喰や商人も多い、庶民の街だった。 電話やネットのない時代には便りをひとつ送るにも、日本各地に散らばった伝馬による輸送システムが最速だった。それもほんの百五十年ばかり昔まで、ぼくたちの文明はその程度のスピードで情報を伝達していて、それで別に不足もなかったのだ。一瞬で世界中を駆け巡るネット時代の今日、爆発的に加速度を増した情報速度とはなんなのだろうとつい不思議に思ってしまう。 速くなればなるほど、見逃してしまうものは多い。なにかをゆっくりと考えながら街の様子を観察するには、やはり時速四キロという徒歩の速度にかなうものはない。最近の街歩き番組の人気には、制作費のカットというテレビサイドの理由だけでなく、もっと生きる速度を遅くしたいという視聴者の多くの願いが反映されているような気がしてならない。 メトロに乗ってお気に入りの街にいき、ふらりと二駅三駅ほどの街歩きをしてみる。気の利いたサービス、しゃれた土産に人情味のある店の数々と、街にはそこを歩く人にだけしか発見できない魅力があふれている。残暑の午後、涼みがてら東京の由緒ある街を歩くのも味があるものです。メトロのある街で石田衣良ネットと馬の速度とぶらぶら街歩き 小伝馬町第六回いしだ・いら 1960年、東京都生まれ。成蹊大学卒業。1997年『池袋ウエストゲートパーク』で第36回オール讀物推理小説新人賞、2003年『4TEEN』で第129回直木賞を受賞。オンラインブックサロン『世界はフィクションでできている』を主催。https://yakan-hiko.com/meeting/ishidaira/top.html
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