【ひと駅車両対談】表参道駅のブランディングは簡単? トレンドの仕掛け人 中村貞裕×東京メトロ 野町琢爾

毎回、銀座線沿線の街で活躍する方々をお招きし、お話をうかがう対談企画「ひと駅車両対談」。今回フォーカスするのは、名だたる街がならぶ銀座線の駅でも、流行に敏感な大人たちを惹きつけてやまない街にある表参道駅。新しいファッションやアートがこの街に集中し、常に時代の最先端をつくってきました。今回お迎えした株式会社トランジットジェネラルオフィスの代表取締役社長 中村貞裕さんは、表参道にオフィスを構え、また表参道の魅力を知り尽くした人物。対談を通して、この街が持つ魅力とパワーに迫ります!

中村貞裕

中村貞裕(なかむらさだひろ)
株式会社トランジットジェネラルオフィス代表取締役社長。多岐にわたる業種のブランディングを手がけ、様々な業態の飲食店をプロデュースするなど、多方面で注目を集める。自著に『中村貞裕式 ミーハーの仕事術』(ディスカバートゥエンティーワン刊)など。東京都出身。

日本橋駅務管区三越前区長

野町琢爾(のまちたくじ)
東京地下鉄株式会社 鉄道本部鉄道統括部計画課長。現在、銀座線リニューアルの担当として指揮を振るう。クラシック音楽が大好きで、所属する楽団ではオペラの指揮を担当している。

神田味坊

街に縁の深いクリエイターが参加してもいい

野町 まずは簡単に自己紹介を。私は鉄道事業の戦略を立てたり、投資の計画を練る部署で仕事をしています。例えば一番大きい案件だと、各駅にホームドアをつける計画などですね。現在は銀座線のリニューアルにも携わっておりまして、なにかヒントがあればと中村さんにお話をうかがうことになりました。中村さんがプロデュースしている数々のお店は、表参道に1号店を出すことが多いとお聞きしましたが、表参道という街の魅力はどんなところでしょうか?

中村 なぜ表参道なのか。ビジネス的に言うと、この街を訪れる人も働いている人も含めて、非常に感度の高い情報発信力がある、もしくは情報に飢えている人たちが多い。僕らはメディアを使った戦略ブランディング的な飲食事業をやっていますので、おのずと1号店はトレンドの情報が集まる表参道が中心になるわけです。

野町 なるほど。表参道というと、大人が落ち着いて遊びに来るというんでしょうか、そんなイメージが強くありますが、情報発信の場でもあるわけですね。我々の場合、お客様を安全にお運びするという本来の目的はもちろんですが、駅にも表参道らしさというものをもっと出していきたいと考えています。その例として、大規模な駅ナカの商業施設であるEchikaの第1号は表参道でした。銀座線リニューアルを機会と捉えて、今後はより街の雰囲気を駅のなかに取り入れていきたいと思っているのですが、中村さん、何かアイデアはないでしょうか?

中村 まず、表参道駅の出入口が改装されたことは、非常によかったと思うんです。街が日々変化していくなかで、ハードの部分というか、見た目の部分は街に合わせてかっこいいものにしたほうがいいと常々思っているので。

野町 おっしゃるとおり、弊社はやはりハードをつくるというイメージがありますよね。街の玄関口というか。

表参道駅のブランディングは思ったより楽かもしれない!?

中村 実は弊社では、これまで鉄道会社さんのプロデュースをいくつか手がけているんです。例えばJR東日本さんが展開している「TOHOKU EMOTION」というキャンペーン。これは青森県八戸駅から岩手県の久慈駅を結ぶ土日祝日限定の食堂列車で、デザイン周りから音楽、食材にいたるまですべて地元の素材を利用しています。ほかには「走るアートカフェ」というコンセプトで、上越新幹線の車内でアートや新潟産の素材を使ったスイーツを楽しめる「現美新幹線」。いずれも"移動"ではなくて"乗って楽しむこと"自体を目的としたもので、おかげさまで評判も上々です。

野町 そう考えると、銀座線や表参道駅を十分にブランディングできる余地はあるかもしれませんね。

中村 そうですね。とくに表参道駅の場合はメディアの力を借りるまでもないくらいの知名度やイメージをすでに持っているので、かなりブランディングしやすいと思いますよ。

野町 簡単なアイデアがもしあれば、お聞きできればと。

中村 やはり洗練された街なので、駅ナカのテナントはそれに合ったものを展開していくのがいいのではないでしょうか。よく山手線の駅などで、駅ごとに発車のメロディが変わったりしますよね。表参道駅だってもっと差別化しても面白いのではないかと。例えば制服は表参道に縁の深いファッションデザイナーにつくってもらうとか。あとは構内で流れる音楽をオリジナルで制作してもいい。百貨店の伊勢丹が、シンガーソングライターの矢野顕子さんにつくってもらったオリジナルソングで話題になりましたよね。

野町なりましたね! いただいたお話をまとめると、表参道駅には視覚的にも、聴覚的にも、もっと個性や主張があっていい、ということでしょうか。

中村 そうですね。表参道って、嫌いな人はほとんどいないと思うんです。特に、東京に住んでいる人であれば。表参道・青山はみんなにとって憧れですし、そこに何らかの形で関わることに違和感がまったくない。だから協力してくれる人は多いはずです。表参道という街で培われてきたファッションやアート、建築など、クリエイティブなもので駅のなかを満たしていくのはアリかもしれませんね。

神田味坊

野町 中村さんのアイデアをお聞きしていると、駅そのものの役割や立ち位置を見直すことからはじめた方がいいような気もしてきます。

中村 そうですね。ある建築家の方の対談を聞きに行ったときに、建築をするときに"名前を外すことからはじめる"ということを話していたんですよ。例えばコップがあるとしたら、コップって名前があるからこそ水を飲む道具と信じきってしまうじゃないですか。でも、コップという名前をいったん外すと花瓶にもなるし鉛筆立てにもなる。だから、「電車」というと移動手段になっちゃうんですけど、電車という名前をそこから外すと、例えば乗っているだけで携帯を充電できる機能であれば充電スポットという場所にもなる。まず名前を外して考えをスタートさせるというのを聞いて、面白いなと。

野町 まだまだ試験設置ではあるのですが、表参道駅にワークスペースを置いています。表参道駅のほかに、溜池山王駅、銀座駅にも設置しています(2016年11月時点)。

中村 それいいじゃないですか! みんな駅で仕事したいことだってありますもんね。こういうアイデアは誰が提案するんですか? やはり外部の方なんでしょうか。

野町 最初のきっかけは社員のアイデアですね。社内公募がありまして、現場で働いている人にしかわからないアイデアもあります。やはり若い社員の方が発想も豊かなので面白いものが出てきやすいですね。

切っても切れない、街の活気と終電の関係

中村 そうそう、銀座線へのお願いとして、24時間営業にしてほしいです。飲食店をやっている僕らとしては、終電で帰さなきゃいけないというプレッシャーが強いんですよね。お客さんじゃなくてスタッフの話です。結局、スタッフが終電ギリギリになるし、お店自体は夜も営業することはできるんですけど、スタッフが集まらない事態が発生してしまう。

野町 飲食業と地下鉄の場合、切っても切り離せない関係があるんですね。

中村 やはり世界的な都市としては一晩中動いて欲しいなという希望はあります。24時で街が止まってしまうのはちょっと早すぎるんじゃないかと。ニューヨークやロンドンが一晩中遊べるのに対し、眠らない街東京とは言いがたい状況ですから。

野町 なるほど、そういう考え方もありますね。そこにまた、新しい市場が生まれたりといったものが当然あるんでしょうね。移動というものは、街を活性化するひとつの大事な要素ですから。24時間営業はすぐに「やりましょう!」といえるものではありませんが、繁華街にとって深夜帯がとても重要なのはわかります。

中村 地下鉄が24時間走っていたら、絶対、家に帰らなくないですか? 翌朝から仕事があるとしても、2時までは遊びますよ(笑)。東京の子たちって情報もいっぱい知っているしノリがいいように見えるけど、みんなサーッと終電で帰って行っちゃう。あんなににぎわう表参道ですら、24時になると閑散としてしまいますから。

神田味坊

2020年は一観客としても楽しみたい!

野町 2020年の東京には大イベントが控えていますが、都市の主要なスポットを結ぶ銀座線はどう盛り上げていくべきなんでしょうか。もちろん期間中は、海外からのお客様がどっと押し寄せることへの対応を第一に考えなくてはいけませんが。

中村 期間中の4週間なんてあっという間に終わってしまいますよね。それこそ打ち上げ花火のようなものですが、どちらかというと花火を上げる当日までの方が大切じゃないかと思っています。そこまでの4年間を、どうモチベーションを上げて、アイデアを出し合い、実行していくか。さきほどお話ししたような駅の個性を高めることも、決して無駄なことではないと思います。表参道、ひいては東京という街の大きなアピールにもなるわけですし。

野町 なるほど。中村さんは2020年に向けて何か準備されていることはありますか?

中村 弊社としては、期間中にパブリックビューイング的なことをしたいと考えています。スタッフからも「中村さん、何かおもしろいことやるんすよね?」ってプレッシャーをかけられていますし、それ以上に自分自身、生の試合を観て楽しみたいですから(笑)。

野町 なるほど。自分のユーザーとしての目線も大切しないといけないですね。今日は貴重なお話をいただきました。ありがとうございました。

中村 こちらこそ、インフラという視点から表参道を見直すよい機会でした。ありがとうございました!

神田味坊

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