サラリーマンの聖地?「新橋駅」の駅弁をつくったら、超個性的な駅弁が完成した

下関マグロ

書いたひと:下関マグロ
山口県出身。東京都台東区在住。東京の街歩き、食べ歩きなどを中心に執筆活動をしているフリーライター。近著には『歩考力』(ナショナル出版)、『町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう』(立東舎/共著)などがある。

銀座線にはない、駅弁をつくるぞ!

鉄道の魅力といえば、駅弁だけれど、地下鉄には駅弁がない。ならば、つくっちゃおうというわけで、銀座線沿線のお店に協力してもらって駅弁をつくろうという本企画の第1弾が日本橋駅。それに続く第2弾が新橋駅となった。

というわけで、用意したのは今回も空の曲げわっぱ。

この曲げわっぱのなかに、新橋駅のおいしさ、おもしろさを詰めこんでいこう。

この曲げわっぱのなかに、新橋駅のおいしさ、おもしろさを詰めこんでいこう。

新橋駅といえば、"サラリーマンの街"というイメージがある。しかし、これは実に安易だった。新橋はけっしてサラリーマンの街ではない。「銀座線新橋駅弁」をつくる過程で、そのことに気づかされたのだ。

魚で呑むならこちらのお店!「魚金」

まず最初は、新橋といえば、こちら「魚金」さん。

いつも予約でいっぱいの魚金2号店

いつも予約でいっぱいの魚金2号店

現在は都内で39店舗を展開する魚金グループだが、その1号店はJR新橋駅の烏森口そばで1995年1月に誕生している。都内39店舗のうち10店舗が新橋にあるというわけで、魚金グループにとって新橋はなじみが深い。

魚金グループの特徴といえば、なかなか予約が取れないほどの人気。魚金ではイタリアンバルやビストロなどのお店も展開しているが、その中核になるのが、和食。しかも魚料理が安くておいしいと評判だ。

ということで、こちら魚金2号店から3品を提供していただくことにした。

店長自らが焼き台の前に立って料理をつくってくれた

店長自らが焼き台の前に立って料理をつくってくれた

料理ができあがるまで、店長の佐野貴治(さの・たかひろ)さんに少しお話をうかがった。

40歳で独身だという佐野店長

40歳で独身だという佐野店長

──魚料理が評判の魚金さんですが、そのポイントとなるのは?

「そうですね、うちはランチをやっていないんです。朝、築地で仕入れた魚を調理して、その日のうちに使い切るようにしているんですね。だから毎回新鮮でいいものを提供できると思っています」

──なるほど、仕入れた魚を翌日に持ち越して、ランチに使うってことはしないんですね。ところで、今回は駅弁用に魚金さんから3品ほど提供いただくのですが、どういうところを工夫していただいたんですか?

「一品はうちの人気商品で、お弁当にもピッタリだと思います。また、もう一品は冷めてもおいしさを損なわないように工夫しました。ただ、お店で出しているものだと大きすぎるので、今回はお弁当サイズにしています。最後の一品は季節限定の人気メニューなんですが、これもお店のものにひと工夫加えて、お弁当用にアレンジしてあります」

おお、ありがとうございます。まずは魚金さんで3品ゲット。しかし、見るからにおいしそうだ(内容はあとのおたしのみ)。

新橋で70年続く老舗はサラメシ天国「ビーフン東」

さて、お次は新橋駅前ビルの1号館。エレベーターで2階にあがると、「ビーフン東(あずま)」がある。このビルで50年、それ以前のビルが建つ前に、同じ場所で開業していた年数を加えると70年になる。

ランチ時は近隣のサラリーマンやOLでいっぱいだ。

永六輔や池波正太郎も通ったという老舗

永六輔や池波正太郎も通ったという老舗

夜は台湾料理をベースにした料理を出しているが、ランチはビーフンなど数種にメニューを絞り込んで営業している。これは70年前から変わらないスタイルなんだそうだ。

店内には昭和36年当時の新橋駅付近の写真が飾ってある

店内には昭和36年当時の新橋駅付近の写真が飾ってある

さて、料理ができあがるまで、二代目の東俊治さんにお話をうかがおう。

いつもレジ横のテーブルに陣取っているという東さん。僕たちもそこに座って話を聞くことにした。

怖そうだけど、話すと実に気さくでやさしいご主人

怖そうだけど、話すと実に気さくでやさしいご主人

──ご主人、銀座線の思い出ってなにかありますか?

「いやぁ、昔はガラガラだったよ。今から50年前、大学へ通うために乗ってたけど、混んでいたっていう記憶はないね」

──へえ。今の銀座線の混みようを考えると、ちょっとイメージできない。僕がはじめて銀座線に乗ったのは今から33年前だけど、すでにけっこう混んでいたなぁ。

「当時は勝鬨橋(かちどきばし)の先のアパートに住んでましてね、銀座線に乗るために歩いて銀座駅へ行ってました。地下鉄はガラガラだったけど、道は車が多くて、とにかく混んでましたね。で、当時は国産車なんて少なくて、みんな大きなアメ車でね、それが渋滞しているんですよ」

──ビーフンの味付けは70年前から変わらないんですか?

「そりゃ、変わりましたよ。昔はラード一本槍で、けっこう脂っぽかったんですが、今はあっさりめにしてありますね。昔から変わらないのは、ビーフンの大・中・小っていうのがあるところですね。大盛りがあるところってけっこうあるけれど、小盛があるのは珍しいでしょ。これには理由があって......」

あ、これ以上は駅弁の中身にふれるところなので、後ほど。そうか、ラードでギトギトじゃないから女性のお客さんもけっこう多いわけか。

「あの、煙草いいですか?」とご主人。

あ、どうぞ、どうぞ。そういえば、こちらのお店、どの席でも喫煙可なんですね。そのあたりも昭和のスタイルなんだ。

「はい、できたよ」とお弁当の一品が完成!

「はい、できたよ」とお弁当の一品が完成!

テイクアウトもできて、よく新幹線に乗る前のお客さんもお持ち帰りで買っていくという、その料理とはいったいなんなのか......もうちょっと待ってね。

宇宙でここにしかない超ユニークな居酒屋「かがや」

最後に訪れたのは居酒屋「かがや」さん。

場所は、ニュー新橋ビルすぐそばにある雑居ビルの地下1階

場所は、ニュー新橋ビルすぐそばにある雑居ビルの地下1階

まず、看板がユニーク。カエルが描いてある。ちょっとどんなお店だかよくわからない感じのまま、階段をおりてお店へ。

「いらっしゃい」と迎えてくれたのはカエルのコスプレをしたマスター

「いらっしゃい」と迎えてくれたのはカエルのコスプレをしたマスター

えええっ!? お店、間違えてませんよね......。

──マスター、お名前を教えてもらえますか?

「僕は、かえる星からきたケラロスピョングース伯爵だよ」

まあ、聞かなかったことにして...

こちらからおいしい、お料理3品をご提供いただく予定だけど、どうすれば......。

「それじゃ、ちょっと注文してもらえますか」

と、出てきたのがこちらのメニュー。

えっ、これがメニューなの?

えっ、これがメニューなの?

あ、あの、じゃあとりあえずこっちの赤い文字を注文させていただきましょうか。というか、これ、ちゃんと言わなきゃいけないんですか? もうそれ以外選択肢はなさそうだ。

「あー、やっと仕事終わった。あっ、えっとお腹がペコペコなんだ、マスターおおいしいもん、たべささた......」

「はい、噛んだからもう1回!」とマスター。

ええっ、そういうシステムなんだ。今度は噛まないように慎重に言って、なんとか注文できた!

やっと料理を出してもらえるぞ。

──マスター、あの、厨房のぞいてもいいですか?

「どうぞ」

打って変わって厨房では居酒屋の店主の顔をされている

打って変わって厨房では居酒屋の店主の顔をされている

ごく普通の厨房。しかも、おいしそうな家庭料理がつくられている。なんだか安心。

料理の準備をしていただきながら少し話をうかがった。

──こちらのお店の表には看板が2種類ありましたよね。ひらがなの『かがや』と漢字の『加賀屋』さん。どちらの表記なんでしょう?

「あー、あの漢字の看板は、うちのじいさんのときにやってた酒屋のものなんですよ。昔は酒屋の一角で立ち飲みでお酒を飲ませたりしたんですね。そのあと、うちの親の代で居酒屋を始めて、だんだん僕が手伝うようになり、本格的に僕が引き継ぐようになってからはもう27、8年ですかね」

──銀座線についての思い出ってありますか?

「僕は新橋の人間なんで、いちばん身近な地下鉄といえば銀座線ですね。電灯がパッと消えちゃう電車ね。僕の同級生が営団地下鉄(現在の東京メトロ)に入ったんですよ。当時は駅員さんが改札にいてハサミでパチパチと切符を切る時代で、偶然彼が切符切ってくれて、おーっスゲエ!みたいなことはありましたよ」

──新橋も昔と今は変わりました? たとえば、昔は芸者さんがいたりとか。

「あー、いたいた。芸者さん。昔は裏通りを歩いていると三味線の音色なんて聞こえてきてましたよ。あとは、流しのおじさんね。子どものころはそういう風景を見て育ちました」

ちょっと料理ができるまで飲み物でもいただきましょうか。

飲み物は、

飲み物は、"持ってき方をきめてください"ってあるぞ

それじゃ、ウーロン茶で、持ってき方は、中国でお願いします。

あっという間の出来事で、ウーロン茶登場。

あっという間の出来事で、ウーロン茶登場。

あーなるほど、こういうユニークなパフォーマンスがあるのか。他の持ってき方もぜひ見てみたいなぁ。わざわざ外国人観光客がやってくるというのもうなずける。

というわけで、料理がそろったぞ。

この中から3品をピックアップ!

この中から3品をピックアップ!

ちょっとつまんでみたけど、どれもおいしい和風の家庭料理だ。こりゃ期待できるねぇ。

新橋駅の駅員さんに試食してもらう

提供いただいたお料理を曲げわっぱにつめこみ、銀座線新橋駅へ!

駅員さんに試食していただくことにした。

新橋駅で働く佐藤さん(右)と、川村さん(左)に試食していただくことに

新橋駅で働く佐藤さん(右)と、川村さん(左)に試食していただくことに

佐藤さんは昭和58年入社、現在は銀座駅務管区新橋地域(新橋駅、虎ノ門駅)の助役さん。川村さんは平成26年入社で新橋駅に勤務する駅員さんだ。

──佐藤さん、助役というのは、どういうお仕事なんでしょう?

佐藤「お客様の安全と安定輸送を守ること、それと駅係員の監督ですね」

駅の管理や監督をする、けっこう大変そうな仕事のようだ。

──川村さんはどんな仕事を?

川村「改札業務もやりますが、ホームでの放送もしています」

──へえ、どんなことを言っているんですか?

「年末年始になると、お酒を飲まれるお客様が多いですから『白線の内側までお下がりください』は、特によく言いますね。そうそう、新橋駅というとテレビなんかでよくサラリーマンの街って紹介されますけど、実は働いていらっしゃる女性の方も多いんですよね」

あー、そうかもしれない。僕らはテレビの影響などで、ついつい新橋駅はサラリーマンしかいないというイメージを抱いてしまうけれど、実際は女性の乗降客も多いし、昼間はたくさんの旅行客も乗りかえていくそうだ。銀座線新橋駅はいろいろな顔を持っているのだ。

今回、お弁当の材料を提供していただいたお店も、実に多様な個性を持っているといえるだろう。

さて、このおふたりには共通点があった。おふたりとも普段のランチは愛妻弁当なんだそうだ。お弁当にはうるさい駅員さんだからこそ、今回の試食役にぴったりなのではないだろうか。

それでは、お弁当を食べていただこう。

これが「銀座線新橋駅弁」だ!

これが「銀座線新橋駅弁」だ!

真ん中には、魚金2号店さんから提供の3品。ぶりの照り焼き、だし巻き玉子の明太子トッピング、カキフライ。

右は、ビーフン東さんから提供していただいた1品。バーツァン(中華ちまき)。

そして左に、かがやさんから提供いただいた3品。野菜の浅漬け、筑前煮、鳥のつみれ。

バラバラのようでいて、こうしてわっぱにつめてみると、それなりに駅弁として完成しているように思える。

ちょっとわざとらしく、いただきますポーズ!

わざとらしい演技をしてもらったぞ

わざとらしい演技をしてもらったぞ

というわけで、試食していただこう。実食!

佐藤さんの愛妻弁当にはいつも玉子焼きが入っているのだとか。というわけで、まずは、だし巻き玉子から。

 まずはだし巻き玉子から。「あ、おいしいですね」と佐藤さん

 まずはだし巻き玉子から。「あ、おいしいですね」と佐藤さん

今回は銀座線ということで、銀座線カラーのだし巻き玉子にしたと、魚金2号店の店長もおっしゃっていたと伝えると、「なかは丸ノ内線ですね」と佐藤さん。あ、確かに明太子は赤色だ。さすがは東京メトロの社員。

ここで、川村さん、弁当のなかから一品を取り出して、不思議そうに見ている。

 これはなんですか?

 これはなんですか?

ほら、これ

ほら、これ

佐藤さんの分は半分に切られていたのだけれど、川村さんの弁当には竹の皮に包まれたままで中身がまったく分からない状態だった。

けっこう具だくさんなちまきですね、これだけでお弁当みたい

けっこう具だくさんなちまきですね、これだけでお弁当みたい

ビーフン東さんのバーツァン(中華ちまき)は、ふっくらと蒸されたもち米に具材は豚の角煮、ウズラの卵、茹でたピーナツ、椎茸などの具材が入っている。

ちなみにお店で「半分で」と注文すれば、佐藤さんの弁当に入っていたもののように半分に切って出してくれる。ウズラの卵まできれいに半分に切れるワザがすごい。

このカキフライは、カキの味が濃いですね。

このカキフライは、カキの味が濃いですね。

そうそう、魚金2号店さんのカキフライは、お弁当に合うように、お店で出すものよりも細かいパン粉を使って揚げたとのこと。「いやらしい話ですが、串カツ用のパン粉を使ってまして値段は通常の8倍するんですよ」とお店の方がこっそり教えてくれた。

あっという間に食べ進む佐藤さん(右)、お話をしながらゆっくり食べる川村さん(左)

あっという間に食べ進む佐藤さん(右)、お話をしながらゆっくり食べる川村さん(左)。二人とも、かがやさんの料理には「家庭的でホッとする味」と、表情をゆるませる

佐藤さんの趣味はバイクだそうで、愛車はKAWASAKIのZRX1200Rだそうだ。それだけにスピード感のある食べっぷり。対する川村さんはスタッフと会話をしながら、ゆっくり目のペースで食べていく。

そろそろ食べ終わるころ、おふたりにいちばん好きなものを聞いた。

私は、このちまきですね。こってりした味付けが最高でしたね

私は、このちまきですね。こってりした味付けが最高でしたね

佐藤さんはバーツァン(中華ちまき)がいちばんのお気に入りだったようだ。

僕はこの、ぶりの照り焼きですね

僕はこの、ぶりの照り焼きですね

川村さんがお気に入りの魚金2号店のぶりの照り焼きは、曲げわっぱに入るようにお店で出す物よりも小さいサイズで、しかも味を濃くしているそうだ。冷めても味がボケないように工夫したと、店長さんが言っていた。

さまざまなお店ひしめく新橋の底力を目の当たりにしたような気がした。ここで働くサラリーマンやOLたちの腹を満たし、活力を与える彼ら飲食店の存在はやっぱり大きい。

完食! 佐藤さん&川村さん、そしてご協力くださった飲食店さん、ありがとうございました!

完食! 佐藤さん&川村さん、そしてご協力くださった飲食店さん、ありがとうございました!

いやぁ、筆者も大いにドキドキしながら、お弁当の完成を見守ったけど、なんだか完食後はちょっとした感動したよ。さて、次回はどこの駅の駅弁かな?

取材協力:
「魚金2号店」
東京都港区新橋3-8-6 大新ビル1F
電話03-3431-6662

「ビーフン東」
東京都港区新橋2-20-15 新橋駅前ビル1号館2F
電話03-3571-6078

「かがや」
東京都港区新橋2-15-12 中原ビルB1 F
電話03-3591-2347

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