まさにドリーム駅弁!浅草の歴史を詰めこんだら、世にもぜいたくな逸品ができあがった【銀座線ドリーム駅弁】

下関マグロ

書いたひと:下関マグロ
山口県出身。東京都台東区在住。東京の街歩き、食べ歩きなどを中心に執筆活動をしているフリーライター。近著には『歩考力』(ナショナル出版)、『町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう』(立東舎/共著)などがある。

「地下鉄にはあるはずのない駅弁をつくっちゃおう」という、食いしん坊な動機からじまったこの企画。第3弾は浅草駅でトライ。そう、東洋最初の地下鉄駅として開業した浅草駅で、ドリーム弁当をつくることになった。

さぞや老舗感溢れるものが......と思ってフタを空けてみたら、史上最強に豪華な逸品ができあがったのが、今回の浅草駅だ。

では、駅弁をつくるツアーにいざ出発!

というわけで今回も空の曲げわっぱを用意。

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

このなかに浅草駅の周辺で見つけたおいしいものを詰めこんでいくよ!

それにしても、曲げわっぱって、浅草の景色になじむね。

ビーフシチューが自慢の老舗洋食店「ぱいち」

浅草で食事をするといったら、僕がまず思い浮かべるのは老舗の洋食店。有名店がいくつもあるから迷っちゃうね。そんななかで、ビーフシチューならこちら「ぱいち」さん。

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

老舗としての風格もあるが、ふらりと入れる気安さもある老舗洋食店「ぱいち」

浅草の老舗洋食店というと、敷居が高い、お値段が高いというイメージがあるかもしれないけど、こちら「ぱいち」さんは、庶民的な店構えだし、値段はさほど高くはない。とくにランチだと1,000円以下でいただけるセットもあって、普段使いできるお店だ。

まずはご主人にお話をうかがってみよう。

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

三代目の店主、笹川勇二さん

── ご主人、こちらは昭和11年(1936年)創業なんですよね。

「ああ、ネットなんかにはよくそう書いてあるんだけど、うちはそれ以前から、一杯飲み屋をやってたの。ぱいちという店名は、"一杯"をひっくり返した言葉。昔はそういうふうに言葉をさかさまにするのが流行ってたみたい。で、おじいちゃんが一杯飲み屋から洋食屋に変えたのが昭和11年だから」

── ということは、銀座線の浅草ー上野駅間が開通した昭和2年(1927年)にはすでに「ぱいち」さんは営業していた、と。

「昭和2年? ウチはもうやってましたね」

── さっそくお料理をお願いしてもいいですか。

「はい、それじゃウチのおかずを2人前つくればいいんだね」

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

ビーフシチューで有名なお店なのだが、さすがに駅弁向きではないので別の料理をつくってもらう

── ご主人も生粋の浅草育ちなんですよね。やっぱりお祭りのときは特別ですか?

「三社祭やってる3日間は店を閉めて、祭りに入れ込みますよ。若い頃はみこしにも乗ってたしね」

── まさに浅草の若旦那ってかんじです。

「だから、ゴールデンウイーク明けはなんだかんだと忙しいんだ(平成29年度の三社祭の開催時期は5月19日〜21日)。はい、お料理できましたよ」

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

洋食のおいしそうな脂の香りがただよってくる。1軒目からいきなりお腹が空いてきたぞ

東京でいちばん古いおにぎり専門店「宿六」

さて、お次は言問通りにあるおにぎり専門店「宿六」さんへ。

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

昭和29年(1954年)創業の「宿六」

お弁当の定番といえば、おにぎりでしょう。

まるで、お寿司屋さんのようなカウンターがあるお店で、迎えてくれたのは店主の三浦さんだ。

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

三浦洋介さんは三代目の店主

「うちの宿六」といえば、昔から奥さんが亭主をののしるときに使う言葉。いかにも浅草っぽい屋号だが、こちらのお店は三浦さんのおばあさまがはじめられたお店なんだそう。

店内には、そのおばあさまのお友達が書いたというこんな色紙があった。

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

「東京で一番古い 元祖にぎりめし 浅草宿六」

東洋一古い地下鉄の駅、浅草駅の記事には、まさしく格好のお店だ。

では、さっそく握ってもらいましょう。

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

手際よくあっという間に1個、2個とできあがっていく

── 実は、僕こちらのお店には何度か来たことがありまして。お昼どきは、好きなおにぎり2個か3個にお豆腐のお味噌汁とたくあんが付くランチセットがあるんですよね。そういえば、ご主人が祭りのことを話していらっしゃったのを記憶しています。

「はい、三社祭ね。祭り期間中は人格が変わりますね(笑)」

── 銀座線についての思い出ってなにかありますか?

「思い出もなにも、浅草に住んでいたら、乗る電車はほぼ銀座線の一択しかないんで。どこへ行くにしても銀座線の浅草駅からまず上野や神田に出ていますね」

なんて話をしていたら、あっというまにおにぎりができあがった。

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

数ある具材のなかから、おにぎり2種類を握っていただいた。果たして、どんな具材を使ったんだろうか

200年の歴史を誇る老舗うなぎ専門店「前川」

最後に訪れたのは浅草屈指の老舗、うなぎ専門店「前川」さん。

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

場所は駒形橋の近く。重厚感ある店構えだ

2階の座敷からは隅田川が見える。いい眺め!

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

右が七代目のご主人、大橋一仁さん、左が板前の対馬安夫さん

「前川」さんの創業は今から200年前、江戸末期にあたる文化文政期。もともとはこの場所で川魚問屋として創業したのだそう。江戸時代は大川と呼ばれていた隅田川が目の前にあるので、この屋号になったんだとか。

昔の店舗写真があるというので見せていただく。

こちらが明治時代から関東大震災(大正12年)までにあったお店。

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

昔は舟でお店にやってくるお客さんもいたそうだ

こちらが、関東大震災後から、東京大空襲までのお店。いずれの写真も川側から撮ったもの。

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

やはり、店舗が隅田川に接している様子がよくわかる

というわけで、まずは板前の対馬さんに料理にとりかかっていいただいた。

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

「前川」で包丁を握って20年になるという対馬さん。黙々と料理する姿がかっこいいね

そのあいだ、七代目の大橋一仁さんにお話をうかがうことに。

── ご主人のお弁当に関する思い出があれば聞かせてください。

「お弁当ねえ。小学校の遠足のときなんかは、前の晩におやじが焼いてくれた鰻を、朝、おふくろが弁当につめてくれてましたね」

── ええっ、うな重が遠足のお弁当に!?

「でもまあ、僕は友だちのおにぎりや唐揚げのほうがうらやましくて、よく交換してもらっていましたよ。子供なんてそんなもんです(笑)」

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

うちわをパタパタ......。やはりあの料理が!?

── 大橋さんの銀座線についての思い出がもしあれば......。

「中学・高校と6年間、通学で銀座線を毎日利用していましたけど、浅草駅は始発なので座って行けるっていうのがよかったですね。ただ、昔の浅草駅は入口によって行けるホームが限られていて、ホーム同志も完全に分かれていて。急いでホームに降りても、電車が1番線に来てなければ、吾妻橋の入口まで回って2番線へ行かなければならない。何度も汗だくで走った記憶がありますよ」

そんなお話を聞いているうちに料理が完成。

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

かなり豪勢な品々をご提供いただくことになった。乞うご期待!

浅草駅の駅員さんに試食してもらう

浅草の老舗3店から提供いただいたお料理を曲げわっぱにつめこみ、いざ浅草駅へ!
東京メトロ銀座線の浅草駅に勤務する小林さんと岡部さんに試食していただくことに。

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

助役の小林さん(左)と入社して2年目の岡部さん(右)

左側の小林さんは助役さん。そして若い岡部さんは、浅草駅の改札口やホームで働いている。

── おふたりは、駅弁はお好きですか?

岡部「好きですね。車窓の景色を見ながら、食べる駅弁がいいです。思い出に残っているのは仙台で買った牛タン弁当ですかね」

小林「私は、福島のホッキ貝のお弁当が印象に残ってますね、おいしかったです」

── あのー、お腹の減り具合のほうは......

小林、岡部「絶好調です!」

それでは、浅草駅特製ドリーム駅弁をどうぞ!

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

右は「ぱいち」さん提供の、エビフライ、カニクリームコロッケ。さらにキャベツの千切り、レモン、パセリ、さらに見えてはいないけどその下にポテトサラダと付け合わせのナポリタン。

左には「宿六」さん提供のおにぎりが2個。具は銀座線カラーに近い、山ごぼう、生姜味噌漬。黄色いたくあんも添えられている。そして真ん中は「前川」さん提供の、うなぎの蒲焼、う巻、うざく、うなぎの佃煮、まさにうなぎづくしだ。

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

お弁当を目の前にしたその瞬間、大の男たちが、少年のような顔に変わった!

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

小林さん「これはなんですか?」

── うなぎの佃煮です

小林さん「(うれしそうに)......女房に怒られそうだなぁ」

真ん中の料理を提供くださったのは「前川」さんだと伝えると2人ともテンションマックスに。さすがは浅草駅勤務、「ぱいち」も「宿六」もご存じだったが、残念ながら3店舗ともこれまで訪れる機会がなかったようだ。

ちなみに岡部さんは、駅でのご案内の際、多くのお客さんから「前川」さんの場所を聞かれるそうだ。今回、食べることができてお仕事のプラスになったかも。

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

「前川」さんのう巻を頬張る岡部さん

「前川」の大橋さんによれば、このう巻は、お店で出すものより少し火が強めに入れてあるらしい。お店のものはたまごがもう少しトロっとしているという。

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

部下に負けじと、小林さんはエビフライを豪快に頭からいっている

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

小林「うざくはさっぱりするね」 岡部「このおにぎりも絶妙な炊き具合と塩加減で相当おいしいですよ」

これまでのドリーム駅弁史上、今回のものが原価的には一番高いのかもしれない。ふたりとも食べるスピードがけっこうはやい。

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

本来、地下鉄にはないはずの駅弁。しかもチョー豪華な内容。
最初こそゆっくり走り出したふたりの箸が、いつのまにか銀座線にはないはずの快速急行状態になっているのもうなづける。

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

小林さんは、「ぱいち」さんのエビフライ、岡部さんは「前川」さんのうなぎの蒲焼が気に入ったようだ。

お、やっとえびフライの下にあるポテトサラダとナポリタンにも気がついた様子。これがまたうまいんだ。

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

小林「このナポリタン、平打ち麺じゃないか? おっしゃれだなぁ」
岡部「ポテトサラダ食べました? 脇役の味じゃないですよ、これ。最高です」

銀座線ドリーム駅弁-浅草駅

あっというまに完食。ごちそうさまでした!

いやぁ、さすがは歴史豊かな街、浅草。まさに夢のようなドリーム駅弁でした。

さて、次回はどこの駅の駅弁かな?

取材協力:
ぱいち
東京都台東区浅草1-15-1
電話03-3844-1363

宿六
東京都台東区浅草3-9-10
電話03-3874-1615

前川
東京都台東区駒形2-1-29
電話03-3841-6314

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