2020年夏、銀座駅は幸せのレモンイエローに包まれる。銀座駅デザインコンペ受賞者・吉岡あずささんインタビュー

2020年の完成に向けてリニューアル工事真っ最中の銀座線・銀座駅。新しい銀座駅のデザインは、広く一般から公募するアイデアコンペによって決められました。そのテーマは「地域との連携を重視し地下にいながら地上を感じることができる『銀座のまちの地下1階』としての空間のあり方を問うコンペ」でした。

見事このコンペで最優秀賞の栄誉に輝いたのが、デザイナーの吉岡あずささんです。吉岡さんは、募集要項の内容をどのように解釈し、どんなプロセスでデザインを考えていったのでしょうか? 今回は吉岡さんと当時のコンペを担当した東京メトロ・村里誠さんのお2人に、リニューアル後の「銀座駅のデザイン」に込められた思いを伺いました。

※対談の収録は2018年9月6日に行いました。記事内の情報は同日時点のものです。

吉岡 あずさ

吉岡 あずさ (よしおか・あずさ)
京都生まれ。京都工芸繊維大学大学院を修了後、2012年株式会社アトリエ・ジーアンドビー入社。現在はマンションやオフィスのインテリアデザインに携わる。趣味は旅行、映画鑑賞。

村里 誠

村里 誠(むらさと・まこと)
東京地下鉄株式会社。鉄道本部工務部建築課に在籍していた2013年から銀座線リニューアルプロジェクトに関わる。現在は鉄道本部 鉄道統括部 移動円滑化設備整備促進担当課長。

銀座駅に着いた瞬間から銀座を感じてもらいたかった

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―まずは、コンペのテーマでもある「地下と地上の一体感」を重視した理由を教えてください。

村里 銀座線は日本で初めての地下鉄ということもあり、地上から手掘りでつくられました。そのため、まず「地上から浅い」という特徴があります。この「浅さ」をポジティブに捉え、駅と街との近さが伝わるよう、銀座駅を「銀座のまちの地下1階」と表現しました。加えて、銀座線は東京の代表的な街を通っている路線であり、街の発展とともに歩んできました。そのため、「銀座のまちの地下1階」という言葉には「まちとのつながり」を大事にしていきたいという思いも込められています。

また、銀座は日本を代表する街であり、ひとつのブランドになっています。そのブランドを活かして、日本全国各地からのお客さま、そして海外からのお客さまに、銀座駅に着いた瞬間から銀座を感じてもらいたいという気持ちも込められています。

―銀座駅のコンペを行うにあたって、特に留意した点などはありますでしょうか?

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コンペの募集に使われた資料

村里 2つのポイントを設けました。1つめは、未来を感じさせるような「機能的な駅」であるということ。これは、銀座が歴史あるものを大事にするだけでなく、新しいものと融合させて発展してきた街であることに由来します。

2つめは、地元・銀座の方が感じる「銀座らしさ」です。地元の方の目から見てもふさわしい「銀座らしさ」を、新しい銀座駅にしっかりと取り入れたいと考え、審査員に全銀座会*1代表幹事の谷澤信一様に入っていただくとともに、コンペに先立って谷澤様をはじめとする全銀座会の幹部の皆様数名に参加いただいてワークショップなどを繰り返し、一緒にコンペの軸を練り上げていきました。

*1 全銀座会とは、東京都中央区銀座の全エリアを網羅する自治末端組織である「町会」・地域振興商店街組織である「通り会」・業種業態組合ほか任意諸団体により構成されている組織のこと。 銀座は通りごとに「会」という組織があり、多くの店舗や企業が加盟している。それぞれが独自の活動をしているが、銀座という街全体についての方針は「全銀座会」が決めている。

「銀座の伝統と先端の融合」を"対比"と"重層"によって表現

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―吉岡さんが、今回のコンペに応募したきっかけについて教えてください。

吉岡 会社の先輩からの紹介が応募のきっかけです。私はこれまでオフィスの内装などを担当することが多く、駅という公共性の高いものは担当したことがなかったんですが、募集要項を見て「やってみたいな」と思い挑戦しました。

―コンペの募集要項には"銀座らしいユーザー像の具体化と望ましい経験の提案"を重要視すると書いてありました。「ユーザー像」や「望ましい経験」をどのように定義したのでしょうか?

吉岡 銀座駅は海外からの観光客も含めてさまざまな人が訪れる駅なので、ユーザー像は、「30歳、海外留学経験ありの女性会社員・MIKA(ミカ)」と「海外から旅行で来たMIKAと同世代の友人・MARY(メアリー)」の2人に設定にしました。ミカがメアリーに銀座を案内するために、銀座駅に降り立った時のストーリーを「望ましい経験」として、プレゼンを行いました。海外からのお客さまにも「日本の良さ」を知ってもらえるようなストーリーをイメージしたものです。

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吉岡さんがユーザー像に設定したミカとメアリーのスケッチ

村里 コンペでは、リアリティを追求したいと思っていました。実際にお客さまが銀座駅でどんな経験をして、どんな価値を得られるのか。できるだけ具体的な設定と、より深いストーリーを作ってもらうことを参加者の皆さんにお願いしました。皆さん、本当にさまざまな設定をされていたので、聴いているほうも面白かったです。

―吉岡さんのデザインの核となっているコンセプトは「新・銀座駅 -対比と重層-」でした。これは具体的にどのようなコンセプトでしょうか?

吉岡 「銀座」、「銀座線」、「伝統」、「先端」といったキーワードからイメージされることを抽出して、対比させたり、重ね合わせたりしていくことでひとつの空間を構成していくというコンセプトです。例えば、銀座であれば街並みや柳の木、銀座線であれば電車の車両カラーである、レモンイエローを抽出しました。伝統的なものとしては文様や木目、先端的なものは、デジタルサイネージ*2や大型LEDパネルといった最先端の情報発信ツール、素材としてはガラス・アクリル・アルミを考えました。こうして抽出したものを重ね合わせたり、対比したりしてデザインをしていきました。

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コンセプト立案に使用された資料

―実際のデザインで、特に工夫・配慮したポイントを教えてください。

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吉岡さんが実際に提案した新・銀座駅のデザイン

吉岡 銀座線・銀座駅のホームに降り立ってから改札を抜けて地上へ出るまでの各所に、車両の色にちなんだレモンイエローの光を配置して、「光で人を導く」設計にしました。

たとえば、ホームでは既存の柱を柳の木に見立て、ガラスを重ね合わせてLED照明でレモンイエローに光らせる柱を提案しました。改札口は既存の八角形の柱をレモンイエローでライトアップした上で、ゾーンが切り替わる場所にちなんで門の形をイメージしたデザインにしています。そして駅の出入口は、出来るだけ銀座の街並みになじむよう、周辺の建物と違和感のない素材を使いながら、レモンイエローの光が感じられるようにしました。

―「改札から出入口までをレモンイエローの光で導く」という発想は、コンセプトを考えた当初からあったのでしょうか?

吉岡 いえ、当初は改札やプラットホームなど、それぞれの場所ごとに考えていたのですが、銀座駅全体としての統一感がなく、煮詰まっていました。

その後、実際に何度も銀座駅に足を運び、構内を歩き回ってアイデアを考えていましたが、ある時、銀座線のホームで、目の前に黄色い車両(1000系)がパーッと現れたのを見て、「この黄色、カワイイなぁ!」と感じたんです。調べていくと、この黄色は銀座線が開業した当初から走っていた旧1000形車両に由来する「レモンイエロー」だということが分かりました。しかも、「地下にあっても晴れやかな明るさを」という理由で採用された色であることを知り、「このレモンイエローを取り入れたい!」と思いました。ただ、単に黄色い色を塗ったのでは全体的にレトロっぽくなってしまいますので、「光」を使うという発想にたどり着きました。

「レモンイエローの光で、地下と地上を結ぶ」というデザインは、銀座線開業当初の"地下にあっても晴れやかな明るさを"という思想を継承するという意味も込めたものなんです。

*2 デジタル・サイネージとは、デジタル技術を活用して映像や文字を表示する情報・広告媒体。電子看板。

吉岡さんの作品には「オリジナリティ」と「銀座らしさ」が同居していた

―コンペの選考は、どのようなプロセスで行われたのでしょうか?

村里 下は小学生から、上は80歳代の方まで、全部で182作品のご応募をいただきました。一次審査では審査員20名により、最優秀賞候補として9作品にまで絞り込みました。そして二次審査では一次審査を通過したみなさんに作品についてプレゼンしていただき、審査を行いました。

なお、一次審査に先立って、全銀座会に参加されている企業の方々による投票や東京メトロから200人ほどの社員が参加した社内投票も行っています。一次審査ではこれらの投票結果も参考にしています。

―およそ20倍の狭い門を突破して二次審査に進まれたわけですが、吉岡さんはプレゼンを行うにあたって、意識された点はありましたか?

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吉岡 プレゼンに7分という制限時間があったため、シンプルで分かりやすくすることを心掛けました。たとえば「ユーザー像と望ましい経験」として設定した「ミカとメアリー」の2人がプラットホームで待っている様子などをマンガにして、プレゼン資料に入れました。また、決してプレゼンは得意なほうではないので、しっかりと原稿を作って臨みました。

―応募作品のレベルはいずれも高かったようですが、最終的に吉岡さんのデザインを選んだ決め手は何だったのでしょうか?

村里 実は意外にあっさりと決まったと記憶しています。こういった「レモンイエロー」の照明を強調された作品はほかにあまりなく、印象深かったのではないかと思います。また、銀座のシンボルの柳がデザインに使われていたことなど、「銀座らしさ」がしっかり表現されていました。それが地元・銀座の方々からも好評でしたね。

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「ひとが集う」銀座駅へ高まる期待!

―吉岡さんは、最優秀作品に選ばれて、何か会社・ご自身で変化はありましたか?

吉岡 これまであまり接点がなかった土木関係の方の前で講演をする機会をいただきましたし、雑誌の企画で東京メトロの方を交えて不動産業界でまちづくりをされている方と対談する機会もありました。受賞を機に他業種の方と交流する機会が増えて、自分自身、とてもプラスの経験になっています。

―今はどんなデザインを担当されているんですか?

吉岡 私の会社では、大きくホテルグループ、マンショングループ、商業施設グループの3つに分かれて、主にインテリアデザイン業務を行っています。私自身は、大きな枠組みではマンショングループに属していますが、現在は、オフィスの内装デザインなどを担当しています。なお、銀座駅のコンペ参加にあたっては、会社も「業務」として、社を挙げて応援してくれました。

―銀座駅のリニューアルの完了は2020年の夏ごろを予定しています。今後の銀座駅について、お2人はどのような期待を持っていますか?

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吉岡 銀座駅が交通機関の機能としてだけでなく、「まちのリビング」のような存在になって、駅を基点にお客さまが、銀座の街を巡って歩くような形になっていたらいいなぁと思います。

村里 そうですね。お客さまが銀座の街を歩かれるのと同じような体験を地下でも提供できるような、まさに銀座駅が「まちの地下一階」になってくれたら嬉しいです。

東京メトロの村里さん曰く、地下鉄の駅は「まちへ行くための準備」の場所であり、「気持ちよく家まで帰ってもらうため」の場所。その上で、駅のような公共の場所でも、おもてなしの要素やあたたかな雰囲気などが求められる時代になっているとのこと。
マンションのエントランスやオフィスなど、私たちの身近な場所のデザインを手掛けられてきた吉岡さんの作品が最優秀賞に選ばれた背景にも、そのような時代の潮流があるのかもしれません。

2020年夏、レモンイエローの光が地下から地上へと人々を導いて、銀座の街に輝きをもたらします。きっと、世界に誇る"幸せのレモンイエロー"となってくれることでしょう。

望月崇史(もちづきたかふみ)

書いたひと:望月崇史(もちづきたかふみ)
1975年静岡県生まれ。放送作家。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは足かけ15年、およそ4500個! 放送の合間に、ひたすら好きな鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。 ラジオの鉄道特番出演、新聞・雑誌の駅弁特集でも紹介。 現在、ニッポン放送のウェブサイトで「ライター望月の駅弁膝栗毛」を連載中。
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