「人の流れ」を読んで快適な駅を作る。駅構内の"動線設計"の秘密【銀座線デザイン探訪】

いつもの列車に乗って、いつもの駅で降り、いつもの階段を昇って、地上へ...毎日のように銀座線を使っているお客様にとっては、ごくありふれた日常です。でも、一歩立ち止まって考えてみると、地下鉄の駅は多くのお客様が利用しています。ひとりひとりのお客様が、まるで流れるように改札を抜けて、目的地へ向かって歩いていく...じつは、ココに隠れた「デザイン」があるのです。今回は、お客様が出来るだけスムーズに、ストレスなく、地下鉄の駅を利用できるような「駅の動線設計」について、ご紹介します。

制約が多いなか、限られたスペースを有効に使って建設する「地下鉄の駅」

駅を建設したり、リニューアルしたりするにあたっては、駅のホームや通路で混雑が発生しにくくなるよう、事前に様々な検討を行います。駅構内の混雑度合いは、同じ駅であっても出入口や通路によって異なるため、各駅のお客様利用者数を通路や出入口ごとに定期的に計測している「流動調査」というデータをもとに、把握しています。また将来の駅利用者の需要についても、将来の人口予測やその駅の近くに建設が予定されているビルやマンションの周辺地域情報も入手して、そうした建物に入居する方や働く方の人数なども見積もって、計画や設計に反映しているのです。

ただし、地下鉄の駅は少し特殊で、正確な需要を予測するだけでは不十分です。公共の道路の下を利用している関係で、例えば駅出入口も、道路の幅に基づき、歩行者の動線も考えた広さを確保した上で作る必要があります。地上へ上がるほど、階段の横幅が狭くなる駅がありますが、じつはこの歩行者動線への考慮が理由です。

駅出入口の広さは歩道の幅への影響を考慮して設計されている

さらに、電気や水道、ガスなどの地下構造物に影響を与えないよう、限られたスペースで設計を行っていく必要がありますので、空間デザインには大きな制約が伴います。また、銀座線の駅は鉄鋼框(てっこうかまち)構造*1という特徴的な構造を採用して作られています。そのため、例えばホームに新たな階段を設置する場合、構造上どうしても框に支障してしまうことが多く、その際には補強工事を行っています。

*1 框構造とは、柱と梁を格子状に組み、その接合部を固定している構造のこと

上野広小路駅の框構造

駅周辺の企業や住民の方々との相互協力によって改善される動線

現在、各駅でリニューアル工事が進行中の銀座線。駅によってはリニューアルによって駅構内の動線が改善されるケースもあります。例えば京橋駅の出入口は、駅周辺の再開発に伴って大きく改善されました。元々京橋駅は歩道に駅の出入口が設置されていましたが、周辺の再開発に合わせて、新たに作られたビルに直結する出入口となり、通路の幅が大きく広がりました。

企業のビルと直結することにより、広々としたスペースを確保できた京橋駅3番出口

これは、再開発を行う企業からの申し出を受けて行われたものです。東京メトロとしては民有地を使わせていただく形になるので制約を受けませんし、企業側も公共のスペースとして自社の土地を提供すると、容積率緩和などの恩恵が受けられるメリットがあります。いわゆる"win-win"の関係となりますので、最近はこのように、直結出入り口を作るケースが増えているのです。

また、最近ではバリアフリー対策としてエレベーター工事も盛んに行われています。規模の大きい駅に比べて規模が小さい駅は、周囲に活用できるスペースも少なく、エレベーター1つ新たに設置するのも一苦労です。このような駅の場合はどのように新たなバリアフリー動線を確保しているのでしょうか? 例えば銀座線で最初に開業した区間にある駅の1つ、稲荷町駅がそうした駅に該当します。開業当時の限られたスペースをもとに駅は設計されているため、バリアフリー動線を確保することが難しい稲荷町駅でしたが、周辺用地を取得し、限られたスペースを工夫して、民地内に新たなエレベーター付きの出入口を設置することでバリアフリー動線を確保しました。稲荷町駅のような小さな駅は住宅街にあることも多いので、駅周辺にお住まいの方々のご理解をいただきながら、慎重に工事を進めているのです。

動線のリニューアルでより快適な空間を目指す新橋駅、虎ノ門駅、渋谷駅

では、これから大きく動線が変わる予定の駅はどこなのでしょうか。東京メトロの担当者によれば、新橋駅、虎ノ門駅、渋谷駅の3駅とのことでした。

まずは何といっても、お客様が多く利用している「新橋駅」。階段やエスカレーター、改札を増設することによって混雑を緩和し、よりスムーズな人の流れを作っていくほか、ホームのスペースを広げる工事も現在進行中です。

新橋駅ホーム内の混雑がリニューアル工事によって解消されていることが分かるデータの一例。新橋駅は今後も混雑を解消するために引き続きリニューアル工事を勧めていく予定です。

そして新橋駅の隣にある「虎ノ門駅」も、大きく動線が変わります。強度の維持に十分注意しながらホームの壁を抜く工事を行ったのち、新たな改札を設ける予定だそうです。加えて、日比谷線に新たに設けられる新駅、「虎ノ門ヒルズ駅」との連絡にも配慮した動線をデザインしていくとのこと。

虎ノ門ヒルズ駅付近の供用開始時イメージ図(実際の整備内容とは異なる場合があります)

また、「渋谷駅」については現在、線路を真ん中に挟むかたちで乗車用ホームと降車用ホームが別れています(相対式ホーム)が、リニューアル後は、ホームを挟む形で線路が両側に敷設される形に移設され(島式ホーム)、より広々としたスペースが確保される予定です。

渋谷駅・島式ホームのイメージ図

加えて、バリアフリー設備などを設け、他社線との乗換えをより便利にしていく予定です。渋谷駅は鉄道各社が乗り入れる駅のため、各社との連携を密に行いながら、より一層、「使いやすい駅」をデザインしていくそうです。

「動線」の変化が、より便利で快適な駅への「導線」となる!

ある朝、駅の工事が終わって工事用の囲いが取れ、改札の場所が変わり、まっすぐ進めるようになって嬉しかった経験...ありませんか? じつは緻密なデザインによって生み出されていた「人の動線の変化」が、お客様ひとりひとりの「心地よさ」と直結する「導線」となっているのです。

より便利で快適な銀座線の駅へ、リニューアルは一歩ずつ進んでいます。

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書いたひと:望月崇史(もちづきたかふみ)

1975年静岡県生まれ。放送作家。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは足かけ15年、およそ4500個! 放送の合間に、ひたすら好きな鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。 ラジオの鉄道特番出演、新聞・雑誌の駅弁特集でも紹介。 現在、ニッポン放送のウェブサイトで「ライター望月の駅弁膝栗毛」を連載中。

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