【銀座線 銭湯めぐり】人と文化が交差する老舗「渋谷・改良湯」が思い描く銭湯のあり方

日本を代表する庶民の文化といえば「銭湯」。時代の流れとともに減ってきていますが、かつてはあなたの住む街にも、地元の方に愛される銭湯があったのではないでしょうか。銀座線が走る街を、その街を代表する銭湯から見てみよう! という今回の企画。第一弾の舞台は「渋谷駅」です。日々進化する流行の街で、銭湯はどんな変化を遂げてきたのでしょうか。2018年にリニューアルを果たし、渋谷の街で変化し続ける銭湯「改良湯」をご紹介します。

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書いたひと:高畠美月(たかばたけみづき)

1981年、東京都大田区生まれ。銭湯ライター。黒湯豊富な大田区で生まれ育ち、小さな頃から銭湯が身近にある生活を送る。風呂あがりのビールをこよなく愛し、ウェブサイトTOKYO SENTOで「生ビールが飲める銭湯」シリーズを執筆中。

銀座線より歴史が古い!渋谷の地で創業103年「改良湯」

2018年12月にリニューアルしたばかりの老舗銭湯「改良湯」

2018年12月にリニューアルしたばかりの老舗銭湯「改良湯」

若者や外国人旅行者で賑わう最先端の街である渋谷にも銭湯があるのをご存知ですか? 渋谷駅新南口から徒歩10分程度。明治通りから路地に少し入ったところにある「改良湯」。
シンプルでモダンな外観からは想像もつきませんが、じつは東京のなかでもかなりの老舗銭湯なんです。

改良湯の創業は1916年。銀座線が渋谷駅まで開通したのが1939年ですから、なんと銀座線よりも先輩です......!

改良湯の4代目を務める大和伸晃さん

改良湯の4代目を務める大和伸晃さん

今回お話を伺ったのは、現在の御主人である大和伸晃さん。創業から数えて4代目になります。奥様の実家が改良湯だったということで、4代目を継いで改良湯を切り盛りされているそう。

「改良湯のはじまりは、妻の曽祖父が富山から出てきて開いた銭湯です。そこから103年、ずっとこの場所で営業しています」

103年前というと、第一次世界大戦中のこと。関東大震災や第二次世界大戦も超えて、鉄道の路線も次々乗り入れて、1964年東京オリンピックやバブルもあって......。渋谷の街がどれだけ変わったのかちょっと想像もつきません。

「もともと自分も妻も銭湯を継ぐつもりはなかったんです。自分は飲食の仕事をしていましたし。でも、先代が銭湯を続けられないとなったときに、せっかくこれだけの歴史もあるし、通ってきてくれる常連のお客さんもいるし、じゃあ僕たちでやろうか、ということになって」

最近は銭湯やサウナのブームもありますが、街の銭湯は減少の一途を辿っています。約30年前には2,000軒以上あった東京の銭湯は、今や600軒を割り込むほど。そんな時代にあって、若いお二人が渋谷という街で銭湯を続けているのは、なんとも心強いことです。

2018年に大幅リニューアルした改良湯

落ち着いたトーンの色で統一された洗い場

落ち着いたトーンの色で統一された洗い場

そんな改良湯は2018年、内装外装ともに大幅なリニューアルをおこない、モダンな銭湯として生まれ変わりました。

黒い壁が印象的な外観からシンプルな暖簾がかかった入口は、まるで料亭のよう。洗練された雰囲気のロビー、脱衣所を抜けて浴室に入れば、都会の喧騒を忘れるような落ち着いた空間が広がっています。暗めの照明は、日常を忘れて過ごしてもらうため。一般的には白やクリーム色にすることが多い天井の色も、銭湯では日常を忘れてほしいという思いを込めて、あえて暗い色をオーダーしたそう。光や湯気が美しく見えるように計算されています。

シンプルな暖簾が印象的な改良湯の入口

シンプルな暖簾が印象的な改良湯の入口

シャワーや浴槽のお湯はすべて軟水。ややぬるめの炭酸泉と熱めの湯があり、炭酸泉はゆっくりお湯に浸かりたい女性や、疲労回復を目的にしたスポーツマンに人気だそう。

改良湯は硬度成分が含まれている割合が低い軟水を使用しているため、敏感肌や乾燥肌の方も安心して利用できるそう

改良湯は硬度成分が含まれている割合が低い軟水を使用しているため、敏感肌や乾燥肌の方も安心して利用できるそう

大和伸晃さんと改良湯を運営する、奥様の慶子さん

大和伸晃さんと改良湯を運営する、奥様の慶子さん

浴槽の前にあえて壁を作ったのもこだわりのひとつ。一般的に銭湯は視界が開けているレイアウトが多いですが、改良湯では洗い場の人と目が合うことなく、落ち着いて入浴することができます。

男湯の水風呂は広々として、落ち着く空間にしたかったという

男湯の水風呂は広々として、落ち着く空間にしたかったという

なかでも私の一押しポイントは、キンキンに冷えた水風呂! しっかり温まった身体をこの水風呂に浸したときの心地よさといったらまさに「ととのう」感覚が実感できるはず......! 温冷交互浴がはかどること間違いなしです。サウナ好きからの支持が厚いのも頷けますね。

サウナは350円(税込/入浴料別途)で利用できる(写真はサウナ内を映したもの)

サウナは350円(税込/入浴料別途)で利用できる(写真はサウナ内を映したもの)

浴室の壁絵はアートユニット・Gravityfree(グラビティフリー)のお二人によるもの。銭湯のリニューアルのテーマに据えていた「渋谷クロッシング」(多様な年代、文化が交わる場となってほしいという意味が込められている)を受けて、渋谷の今と昔が交差するデザインに仕上げてもらったそう。よく見ると真ん中に渋谷川が流れていて、かつて渋谷にいくつもあったという水車小屋も。モダンなデザインの中にも、渋谷の歴史が込められています。

浴室の壁絵には渋谷の歴史が表現されている

浴室の壁絵には渋谷の歴史が表現されている

目指したのは「銭湯らしくない銭湯」

柔らかな雰囲気が印象的な4代目の大和伸晃さん(中央)と奥様の慶子さん(右)

柔らかな雰囲気が印象的な4代目の大和伸晃さん(中央)と奥様の慶子さん(右)

すっかり生まれ変わった改良湯。リニューアルにはどんな思いが込められているのでしょうか。4代目の大和伸晃さんと奥様の慶子さんにお話を伺いました。

―リニューアル前の改良湯さんにも来たことがあるので、まずは変わりようにびっくりしました。すごく思い切ったリニューアルでしたよね。

「施設の老朽化もあって、リニューアルは必要でした。見ている景色が変わらないと自分たちも飽きてしまうし、お客さんも面白くないだろうから、思い切って全然違う雰囲気にしようと。自分たちの感覚に合うお店にしたいと思ってデザインしてもらいました」

―特に色合いがガラッと変わりましたね。

「今までは茶色ベースで、おじさんぽい雰囲気だったというか(笑) 色味は自分たちが好きな色味にしたいと思っていました。暖簾の色も、男湯=青・女湯=赤、みたいな銭湯っぽいカラーリングにしたくなくて、淡い色味にして。銭湯は男性客が多いのでどうしても男性っぽくなりがちですが、女性目線をなるべく入れるようにしました」

淡い色合いの暖簾。外国人客にもわかりやすいよう表記も英語にした

淡い色合いの暖簾。外国人客にもわかりやすいよう表記も英語にした

―銭湯は街に深く根差しているものだと思いますが、渋谷という街でやるからこそ、意識していることなどはありますか?

「そうですね、渋谷は多種多様な人が集まる街だと思うので、こちらもなるべく柔軟でいたいと思っています。"こうでなくてはならない"みたいな感覚はなるべく持たないようにと。それで言うと、銭湯の入口もあえて狭く縦長にしたんですよ。横長で間口の広い、従来の銭湯っぽいイメージを変えたくて」

―これだけ大幅にイメージが変わると、常連さんの反応も気になります。地域の、昔からのお客さんも多いですよね。

「初日はいろいろ言われました。照明が暗いとか(笑)。でも、2~3日たったら「暗いのも落ち着くわね」って。新しくなったお風呂に入れて、冥途の土産になると言ってくれるおじいちゃんもいました(笑)。うちは歴史のある銭湯なので、昔をよく知っているお客さんもいます。やはりお客さんは地域の方がベースなので、変わらず来てくれるのはありがたいですね」

―このまえ平日の夕方来た時に、若い方が多くてちょっと驚きました。やっぱり渋谷の銭湯ならではの客層もあるのでしょうか?

「年齢層が若いとはよく言われますね。炭酸泉が疲労回復にいいというので、格闘技をやってらっしゃる方なんかもよく利用されています。リニューアル前に統計をとったら30~50代の男性が多かったのですが、リニューアル後は若い女性の方がだいぶ増えましたね」

銭湯の"使い方"を変えていく

きめ細やかなサービスは脱衣所のアメニティにも現れている

きめ細やかなサービスは脱衣所のアメニティにも現れている

女性客の増加に一役買っている要因は、アメニティの充実ぶりだとか。無料で使えるボディソープやシャンプーはもちろんのこと、脱衣所には化粧水や乳液も完備。ドライヤーも高品質なものを備え付けています。なんと、フロントではヘアアイロンまで貸し出しているそう。

「いままでの銭湯は、一日の終わりに使われることが多かったと思うんです。でも、どこかへ出かける前にひとっ風呂浴びたり、仕事の合間のリフレッシュに使ったりしてもらえるようになりたい。髪をセットし直すためにヘアアイロンを持ち歩くのもイヤじゃないですか。ここは渋谷ですし、色々な使い方に対応したいと思って」

―リニューアル後はイベントも精力的にやられていますね。音楽イベントや映画の上映会など、SNSでも話題になっていました。

「せっかく渋谷という場所にあるし、銭湯をイベント場所に使ってもらうのは大歓迎です。リニューアルで脱衣所のロッカーも可動式になり、広く空間が使えるようにしました。イベントは、普段改良湯に来ないような方が来てくれるのでいいですね。若い方向けのイベントも多いですが、地域の方向けのイベントなども定期的にやっているんですよ」

―それは知りませんでした! ご年配の方向けのイベントですか?

「そうですね、銭湯の営業時間前に行う音楽会とか、折り紙を折る会とか。区報でお知らせするような地域のイベントですね。それはリニューアル前からずっとやっています」

リニューアル後に作ったロゴ入りTシャツも人気

リニューアル後に作ったロゴ入りTシャツも人気

―改良湯さんは若い方向けのイメージでしたけど、やっぱり銭湯は地域に根ざしているものですものね。逆に常連さんが若い方向けのイベントに来ることもあったりしますか?

「最初のうちは、なんだろ? と敬遠する感じだったけれど、回を重ねていくごとに来てくれる常連さんも出てきましたね。銭湯って何かそういうイベントをやっているものだという認識があるみたいで、受け入れてくれている感じがします」

変わりゆく渋谷とともに、変化する銭湯へ

外観の壁画は公募して描いてもらったもの。クジラは漁業の神様である「恵比寿様」の化身といわれ、恵比寿鯨祭のモチーフでもある

外観の壁画は公募して描いてもらったもの。クジラは漁業の神様である「恵比寿様」の化身といわれ、恵比寿鯨祭のモチーフでもある

開発が進む渋谷駅周辺は訪れるたびに新しいものができていて、渋谷という街のパワーを感じさせます。改良湯の今回のリニューアルは、そんな渋谷の街にふさわしい変化だと思いました。2020年1月には、銀座線渋谷駅の新ホームもお披露目となる予定。開業の頃からほとんど変わっていなかったというホームが、近代的に生まれ変わります。

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―奥様の慶子さんはずっと渋谷で育ってこられてますが、銀座線のイメージはどのようなものですか?

「渋谷に住んでいると、地上を走っている銀座線の車両を目にする機会が多いので、小さい頃は銀座線が地下鉄だという認識があまりなかったんです。暗い道を歩いて帰ってきたとき、パっと明るくホームが見えてくるイメージが印象的ですね。あと子供が小さい頃は、銀座線に乗って上野動物園に行ったり、浅草花やしきに行ったりした思い出があります」

―銀座線のホームが完成したら、ハチ公側から渋谷ヒカリエまでアクセスしやすくなるそうですよ。

「渋谷ヒカリエ側にも出口ができれば渋谷駅との行き来がしやすくなりますよね。そうすれば、渋谷駅からの人の流れも変わると思うし、改良湯に足を運んでくれる人がもっと増えるといいですね」



改良湯が渋谷で歩んできた103年で、時代も街も大きく変わりました。一般家庭に当たり前にお風呂がある今の時代、銭湯の役割もこれからどんどん変わっていくでしょう。しかし、その役割自体を拡張していく改良湯はこれからの時代を担う銭湯のひとつであると感じました。

人が集まり、流れができる。鉄道も銭湯も、街と人を繋げているインフラであるといえるかもしれません。渋谷の街とともに変化し続ける改良湯。ぜひ仕事や買い物の合間に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

取材協力:
「改良湯」(かいりょうゆ)
東京都渋谷区東2-19-9
03-3400-5782
月曜日~金曜日 15:00~24:30
日曜日・祝日 13:00~23:00
※最終入場は閉店の30分前まで
ホームページ:https://kairyou-yu.com/

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