新・銀座線上野駅は伝統と先端をつなぐ美術館だった!下町エリア 駅デザインコンペ受賞者・須川悠理子さん(丹青社)インタビュー

銀座線が開通90周年を迎えた2017年12月、下町エリア(浅草駅~神田駅)のリニューアル工事が完了しました。このリニューアルは、東京メトロの「駅デザインコンペ」に寄せられた100点近い応募作品の中から最優秀賞に輝いた作品のデザインをベースにして行われました。

今回は最優秀賞を受賞した株式会社丹青社(以下、丹青社)のデザインディレクター・須川悠理子さんと駅デザインコンペを担当した東京メトロ・村里誠さんのおふたりに、リニューアル工事が完了した銀座線上野駅のデザインに込めた想いを伺いました。

※対談の収録は2019年6月12日に行いました。記事内の情報は同日時点のものです。

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須川悠理子(すがわ・ゆりこ)

多摩美術大学環境デザイン学科を卒業後、2004年株式会社丹青社入社。専門店や商業施設のデザインに携わる。2児の子育て経験を活かし、アメニティ空間のデザインにも力を入れる。趣味は食べ歩き旅行、キャンプ。

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村里 誠(むらさと・まこと)

東京地下鉄株式会社。鉄道本部工務部建築課に在籍していた2013年から銀座線リニューアルプロジェクトに関わる。現在は鉄道本部 鉄道統括部 移動円滑化設備整備促進担当課長。

地上に近い銀座線だからこそ、地域の方々にとって身近な駅であって欲しいと思った

新・銀座線上野駅は伝統と先端をつなぐ美術館だった!下町エリアデザインコンペ受賞者・須川悠理子さん(丹青社)インタビュー

―銀座線の下町エリアの駅デザインコンペに参加されたきっかけは?

須川 会社の先輩に駅デザインコンペを紹介されたのがきっかけです。私が所属する丹青社は当時、上野にオフィスを構えていました。私自身も上野の近くに住んでいた時期があり、銀座線の下町エリアが身近で愛着のある地域でしたので、同じ会社のデザイナーとチームを組んで応募しました。

―東京メトロではどのように作品を募集したのでしょうか?

村里 銀座線下町エリアの駅デザインコンペは、東京メトロとして初めての試みであり、「周辺地域の歴史・地域性との調和を考慮しデザインすること」などを条件に、3駅(上野・稲荷町・神田)のデザインを募集しました。また、路線全体のコンセプトである「伝統×先端の融合」を反映した作品を求めていました。

―作品はどのようなプロセスを経てデザインされたのでしょうか?

新・銀座線上野駅は伝統と先端をつなぐ美術館だった!下町エリアデザインコンペ受賞者・須川悠理子さん(丹青社)インタビュー

実際に下町エリアで撮りためた写真の数々

須川 まずは実際に下町エリアを歩き、その街並みを現地調査することからスタートしました。それぞれの街から受けた印象を踏まえ、上野は「美術館のある街」、稲荷町は「佇む町並み」、神田は「昭和のオフィス街」というテーマでデザインを組み立てていくことにしました。また、銀座線は日本で最初に開通した地下鉄で、浅いところを通っています。*1、その特徴を「地上に近い」と言い換えてコンセプトにしました。駅が街からかけ離れたものではなく、地域の方々やお客様にとって身近な存在であってほしいという想いをデザインに反映させました。

*1 銀座線開通工事では現代のような最新の機械はなく、トンネルの掘削は人力で行われました。そのため地上から浅いという特徴があります。

「伝統」と「先端」のバランスを取るための参考になった、1000系車両のデザイン

―銀座線の路線コンセプトである「伝統×先端の融合」をどうデザインに反映したのでしょうか?

新・銀座線上野駅は伝統と先端をつなぐ美術館だった!下町エリアデザインコンペ受賞者・須川悠理子さん(丹青社)インタビュー

新・銀座線上野駅は伝統と先端をつなぐ美術館だった!下町エリアデザインコンペ受賞者・須川悠理子さん(丹青社)インタビュー

最優秀に輝いた丹青社の作品

須川 上野駅ではホームを美術館に見立て、「伝統と未来の象徴空間」というコンセプトのもとにデザインを行いました。まず、ホームを「プラットホーム側」(通路側)と「線路側」に分けました。「プラットホーム側」は"先端"空間として美術館の外壁と回廊をイメージしたデザインに、「線路側」は銀座線の"伝統"空間として展示スペースをイメージしたデザインにしました。開通当時のリベット柱*2や1000系車両を美術館の展示コンテンツに見立てています。一つの空間を新旧の対比で表現しています。

*2 リベットとは、鋼材をつなぎあわせるために使われる、頭部の丸くなった鋲(ビョウ)のこと。

新・銀座線上野駅は伝統と先端をつなぐ美術館だった!下町エリアデザインコンペ受賞者・須川悠理子さん(丹青社)インタビュー

銀座線上野駅ホームのリベット柱と1000系電車

須川 1000系車両の外観は銀座線開通当時の旧1000形(がた)をモチーフとしたデザインですが、実際に乗ってみると先端の技術が反映されています。これが今回の作品において伝統・先端のバランスを取るにあたって参考になりました。

新・銀座線上野駅は伝統と先端をつなぐ美術館だった!下町エリアデザインコンペ受賞者・須川悠理子さん(丹青社)インタビュー

銀座線上野駅のJR上野駅方面改札には地下鉄開通当初の回転式改札のレプリカが展示されている

村里 最初に作品を見たときに、東京メトロとして残したいものを尊重していただけていると感じました。10~20年後の銀座線がイメージできるようなデザインだったと思います。上野駅は特に印象的で品が良く、どこか懐かしい感じがしました。

―駅という公共空間は多くの人が使いますし、維持・管理にも配慮が必要かと思いますが、機能性とデザイン性をどのように両立させたのでしょうか?

須川 最も意識したのは「光環境」です。駅の設計では、駅構内の清掃のしやすさに配慮して、できるだけ平滑な素材を使用する必要があります。ただ、その中で"立体感"を失わないようにもしたいという思いがありました。そこで、ホームの壁を傾斜させて、間接照明を使うことで柔らかい光がホームを包むようにしました。これまで駅の構内で暖かな雰囲気を感じられるような光を体験したことがあまりなかったので、間接照明にはこだわりました。

新・銀座線上野駅は伝統と先端をつなぐ美術館だった!下町エリアデザインコンペ受賞者・須川悠理子さん(丹青社)インタビュー

―他に工夫した点はありますか?

須川 お客様が上野駅を「移動すること」を想像して、駅構内の空間をデザインしたことです。例えば演劇には"プロローグ"→"メイン"→"エピローグ"といったストーリー構成があります。「美術館のある街」をテーマとした上野駅にも"プレ展示"→"メイン展示"→"ポスト展示"といった3つの流れを設けることで、お客様が駅構内を美術館空間として感じられるようなデザインにしました。"プレ展示"としては改札口にある回転式改札のレプリカを、"メイン展示"としては駅ホームのリベット柱やスクラッチタイル*3を、"ポスト展示"には1000系車両に乗車するという体験自体をコンテンツに見立てることで、お客様が改札を通じて乗車するまでの空間を演出しました。

新・銀座線上野駅は伝統と先端をつなぐ美術館だった!下町エリアデザインコンペ受賞者・須川悠理子さん(丹青社)インタビュー

上野駅ホームのスクラッチタイル。上野駅の開通当時に使用されていた。銀座線上野駅のJR上野駅方面改札付近の柱面に実物が展示されている。

*3 スクラッチタイルとは、櫛(くし)で引っかいたような細い溝の模様があるタイルのこと。

―丹青社のデザインが最優秀賞に選ばれた理由を教えてください

新・銀座線上野駅は伝統と先端をつなぐ美術館だった!下町エリアデザインコンペ受賞者・須川悠理子さん(丹青社)インタビュー

提案に使用された丹青社のコンセプト資料

村里 丹青社さまの作品は銀座線の路線コンセプトである「伝統×先端の融合」を体現していましたし、銀座線開通当時の賑わいを思い起こさせるようなワクワク感がありました。また、デザインコンセプトを各駅に具現化するにあたり、上野・稲荷町・神田を駅ごとに「フォルム(形状)・マテリアル(素材)・光環境・情報提供(駅利用者の方々への適切な情報提供)」の4つのフレームでわかりやすく整理していたことも評価されたと思います。

この「駅デザインコンペ」では、「下町エリア」としてだけでなく、銀座線リニューアルのスタート地点として路線全体への展開がわかりやすくイメージできることも重要なポイントと考えていました。丹青社さまの作品にはお客様にも創る側にもきちんと伝わる「わかりやすさ」がありました。銀座線全体への展開のしやすさも考慮されておりましたので、実際に銀座線各駅の設計を行うにあたってはこの4つのフレームをベースにさせていただいています。

地域の方々やお客様が誇りに思えるような駅に育って欲しい

―上野駅のリニューアル工事を行うにあたり、須川さんはコンペだけでなく実際に駅の基本デザインも担当されたそうですが、作品のデザインが反映されてうれしかった箇所はありますか?

須川 ホームに入る際に1000系車両がライトアップされる提案をしていたのですが、出来上がった上野駅のお披露目の場に招待いただいたとき、電車の入線に合わせてリベット柱が順々にライトアップされたんです。提案当初の想いを汲んでいただけたことを知り、驚きと共に感動を憶えました。

村里 これは東京メトロでは初めての試みでしたが、社内外の関係者で調整を重ねてようやく実現することが出来ました。これまで地下鉄の駅デザインは「白く・明るく」を基本に考えていましたので、間接照明を中心とした光環境にすることは新しい挑戦でしたが、今ではお客様にも上野駅のデザインを受け入れていただけていると感じています。

―最優秀作品に選ばれて、何か会社・ご自身で変化はありましたか?

須川 最優秀作品に選ばれたことをきっかけに、上野駅のリニューアルでは基本デザインという形で最後までプロジェクトに携わることができました。私の在籍する丹青社は複合商業施設や国立博物館などの大型施設から、専門店、イベント空間なども含め、年間6,000件を超えるたくさんのプロジェクトを手がけていますが、地下鉄の駅をデザインするプロジェクトはあまりありませんでした。会社としてもチャレンジングなプロジェクトに取り組めたこと、駅デザインコンペで掲げたコンセプトやデザインイメージを一気通貫で完成まで見届けることができたことは私にとって大きな経験になりました。

―丹青社さまでは現在どんな案件のデザインを担当されているんですか?

須川 私は入社以来ずっと複合商業施設のデザインを主に担当する部署に在籍していて、いまは今年開通する商業施設のプロジェクトを推進しています。いま携わっている商業施設もそうですが、普段から施設の共用部はもちろん、トイレやお子さん連れの方が使うスペースなども含めて、トータルで快適な環境デザインに取り組んでいます。駅や空港と商業空間が一体化した、公共性の高い施設のデザインに取り組むことが多いのですが、利便性だけに留まらず、利用される方に「ホスピタリティを提供できる空間づくり」を心がけています。「自分が使うならこうだと便利だな」、「自分ならこう過ごしたいな」など、自分の想いを空間づくりに落とし込めることにやりがいを感じます。

―リニューアルされた銀座線・下町エリアの駅に、今後期待していることはありますか?

須川 学生時代に建築を学んでいて、フランスのパリに足を運んだことがあります。パリの美術館や建築は有名ですが、じつは地下鉄の駅も思わず写真を撮りたくなってしまうほど、それぞれの駅の個性が際立ったもので、憧れに近い高揚感を憶えたことを思い出します。銀座線・下町エリアの駅も、普段ご利用になるお客様がワクワク感を得られるような駅になって欲しいですし、周辺にお住まいの皆さんが誇りに思えるような駅に育っていってほしいと思います。

村里 下町エリアのリニューアル工事完成からまもなく2年になります。
2019年3月には下町エリアの各駅構内や駅周辺の魅力的な写真を募集するフォトコンテストを催しましたが大変ご好評をいただき早速第2弾を開催するなど、多くの皆様に銀座線や下町エリアの駅、そして周辺の街への愛着を深めていただいていると実感しています。
90周年を迎えた銀座線には、さらにこの先100年・200年とお客様をはじめ地域の皆様に長く愛される路線であり続けてほしいと願っております。そのためにも、工事が完成して終わりではなく、東京メトロとしても様々な取組みを進めて行きたいと考えています。

「伝統と先端」。2つは相反するようにも見えますが、伝統は先端の積み重ねから生まれていくものでもあります。須川さんをはじめ丹青社の皆さんは、その「伝統と先端」をつなぐレールを、丹念に現場を歩いてピカピカに磨き上げ、銀座線リニューアル工事の道筋を照らし出しました。

銀座線・下町エリアの駅に灯る優しい光は、伝統と先端をつなぐ光と言えるかもしれません。

※東京メトロでは、リニューアル後の下町エリア各駅の魅力をより多くのお客様に楽しみながら発見していただくため、2019年7月24日(水)から9月1日(日)にかけて「下町×七駅七彩 フォトコンテスト〜夏〜」を開催しました。

下町×七駅七彩 フォトコンテスト〜夏〜

受賞作品は10月ごろに本サイトにて発表する予定です。

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書いたひと:望月崇史(もちづきたかふみ)

1975年静岡県生まれ。放送作家。 ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは足かけ15年、およそ4500個! 放送の合間に、ひたすら好きな鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。 ラジオの鉄道特番出演、新聞・雑誌の駅弁特集でも紹介。 現在、ニッポン放送のウェブサイトで「ライター望月の駅弁膝栗毛」を連載中。

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