銀座線商業エリアはギフトを受け取った時のようなワクワク感のある街へ。駅デザインコンペ受賞者・包謹慈さん(ノンスケール)インタビュー

2017年に開通90周年を迎え、「伝統×先端の融合」をコンセプトに全線リニューアル工事真っ只中の東京メトロ銀座線。日本最古の地下鉄として東京の街をつないできた銀座線は、歴史を大切にしながらも、先端の機能を取り入れ発信する路線として生まれ変わります。各エリア・各駅のデザイン案は、一般から広く公募する「駅デザインコンペ」によって決まりました。

三越前駅、日本橋駅、京橋駅の3駅が連なる「商業エリア」の駅デザインコンペで最優秀賞に輝いたのは、ノンスケール株式会社(以下、ノンスケール)のデザイナー・包謹慈(パオ・ジンシ)さんです。銀座線に乗ることそのものが魅力的な「経験」となることをテーマとした募集要項をどう解釈し、表現していったのでしょうか。包さんと当時の駅デザインコンペを担当した東京メトロの村里誠さんに、リニューアル後の商業エリアの駅に込めた想いを語ってもらいました。

※対談の収録は2019年9月2日に行いました。記事内の情報は同日時点のものです。

包 謹慈(パオ・ジンシ)

包 謹慈(パオ・ジンシ)

台湾出身。アカデミー・オブ・アート大学院(米国)インテリア建築デザインコースを卒業。台湾で2年の勤務の後、現在株式会社ノンスケールで国内外の大型商業施設を中心としたデザインで活躍。仕事と育児(4歳児)に奮闘中。趣味は各地の有名建築物めぐり旅行と写真撮影。

村里 誠(むらさと・まこと)

村里 誠(むらさと・まこと)

東京地下鉄株式会社。鉄道本部工務部建築課に在籍していた2013年から銀座線リニューアルプロジェクトに関わる。現在は鉄道本部 鉄道統括部 移動円滑化設備整備促進担当課長。

商業エリアの歴史を、豊かな「経験」として感じてほしい

商業エリアの歴史を、豊かな「経験」として感じてほしい

―包さんは普段、どのようなお仕事を手がけているのでしょうか?

 主に大型商業施設、複合商業施設の内装デザインを行なっています。その他にも、海外のオフィスビルや集合住宅のロビーなどの空間デザインも設計してきました。

―今回の銀座線商業エリアの駅デザインコンペを知ったきっかけと、応募した理由についてお伺いできますか?

 デザインコンペに参加したいと思い、建築系のWebサイトで探していて見つけました。デザインコンペにはこれまでも応募したことがあるのですが、普段の仕事の延長線上にない、新しい挑戦ができるところが魅力的だと思い応募しました。

―もともと銀座線にはどのような印象を持っていましたか?

 2011年に仕事の関係で台湾から日本に来て、2年目からずっと銀座線を利用しています。レモンイエローの車両が印象深く、歴史と高級感を感じます。

―「歴史」というキーワードが出てきましたが、村里さん、銀座線商業エリアの歴史と特徴について教えてください。

村里 東京メトロでは三越前駅、日本橋駅、京橋駅の3駅を「商業エリア」と位置付けていますが、江戸時代の城下町から商業的な発展を経てきた歴史のある街です。街に暮らす人たちもその歴史を大事にされており、明治初期に街灯として活躍したガス燈など、街の随所に歴史の跡が残っています。

日本初のデパートである三越日本橋本店の地下売り場と直結する駅として三越前駅が開業した1932(昭和7)年に、当時の東京地下鉄道が「デパート巡り乗車券 *1」を発券するなど、我々東京メトロもその歴史と共に歩んできました。

―そんな歴史ある商業エリアのデザイン案の選考にあたって、重視していたポイントはどこにあったのでしょうか?

村里 商業エリアは、銀座線浅草駅〜神田駅の下町エリアに続く、第2回目の駅デザインコンペとなりました。銀座線全体のコンセプトである「伝統×先端の融合」に重きを置きながらも、新しく加えた「経験」というキーワードも重視しました。

具体的な利用者とシチュエーションを設定してもらい、銀座線に乗ることそのものが魅力的な経験となるような、一つの物語を描いていただく。単にビジュアルだけでなく、銀座線を利用する人たちがどんな豊かな経験ができるのか、コンセプトと物語性を重視して、選考させていただきました。

*1 デパート巡り乗車券は1932(昭和7)年12月24日の日本橋駅開通時に利用区間を上野広小路~日本橋として発売された乗車券のこと。1934(昭和9)年3月3日の銀座駅開通時には利用区間を上野広小路~銀座と改定して1941(昭和16)年8月31日まで販売された。

時・街・物・心を詰め込んだギフトボックスを"光のリボン"で結ぶ

―包さんは、「伝統×先端の融合」という銀座線全体のコンセプトの下、商業エリアの特徴をどのように解釈したのでしょうか?

 三越前駅、日本橋駅、京橋駅という商業エリアは、上野のような下町エリアから、渋谷というトレンドの発信地へ向かう間、その真ん中に位置する場所です。伝統的な文化から現代のカルチャーへの架け橋となるような「つながり」を演出したいと考えました。

―その視点で生まれたのが「歴史+商業 PACK-AGE」という作品コンセプトですね。何か、このアイデアが浮かんだきっかけがあったのでしょうか?

時・街・物・心を詰め込んだギフトボックスを

最優秀賞に輝いたノンスケールの作品

 台湾から来日した際、日本特有のおもてなしの文化に感動しました。特に、お土産等の包装紙が美しくて、そのパッケージに日本のおもてなしの心を感じたのです。そのことを思い出し、「パッケージ」のアイデアが浮かびました。

そこから、商業=PACKと歴史=AGEを掛け合わせた造語「PAKE-AGE」が生まれました。

―日本を海外から見ていたからこその着眼点ですね。「歴史+商業 PACK-AGE」に込めた想いについても教えてください。

 商業エリアで積み重ねられた時・街・物・心を一つのパッケージとしてギフトボックスに大切に詰め込んで、新たな時代へ、紡ぎ伝え発展させるという想いを込めました。

商業エリアにある、経験と未来という「時」、発展していく「街」、継承される「物」、温められる「心」。その4つを銀座線という"光のリボン"で結び、街に暮らす人や訪れる人に、新しい体験として、ギフトボックスを受け取った時のようなワクワク感を持ってもらえたら、とコンセプトを立てました。

時・街・物・心を詰め込んだギフトボックスを

作品制作の際に使用されたコンセプト図

―街自体をギフトボックスに見立てているんですね。駅デザインコンペの課題でもあった「ユーザー像と望ましい体験」については、どのように設定したのでしょうか?

 30代後半のフランス人夫婦が3泊4日で、初めての日本旅行で東京を訪れるという設定を考えました。日本には詳しくないけれど、以前旅先で出会った日本人の友人が案内してくれることになっていて、待ち合わせが三越前駅。渋谷駅から銀座線に乗って、旅への期待を膨らませている、というのが物語の始まりです。

街の魅力を肌で感じてもらうために、歴史等、街の情報が掲載されたパンフレットを各駅に配置することを提案しました。このパンフレットにはボックス型に組立てられるような折り目が入っており、組み立てるとギフトボックスができあがるようになっています。

―具体的でイメージが膨らみます。ギフトボックスを片手に銀座線に乗って街へ繰り出す彼らに新しい体験を提供するために、改札周りを中心に、各駅でどんな提案をされたのでしょうか?

 それぞれの街にある歴史的な特徴をデザインに活かしています。三越前駅では、列柱で調和がとれた街並みをイメージして「整然PACKAGE」というコンセプトを立てています。また、三越日本橋本店が呉服屋から発祥したことから柱に着物の素材を取り入れています。

日本橋駅前は、日本橋を象徴として、水面に映る人と街の歴史をイメージして「鏡映PACKAGE」というコンセプトを。柱には水面を連想させるマテリアル素材を使い、光の反射を演出しています。またプラットフォームには、昔日本橋が木で作られたことから、木材を使ったアーチを再現しています。

京橋駅は、かつて夜の街を明るく照らしたガス燈と歌舞伎をモチーフにした「光舞PACKAGE」というコンセプトです。京橋に今も残るガス燈と江戸歌舞伎発祥之地碑からアイデアを得ました。

時・街・物・心を詰め込んだギフトボックスを

京橋にある「煉瓦銀座之碑とガス灯」(ガス灯は画面中央)

この3つの駅を銀座線という光のリボンで結ぶイメージがありました。三越前から日本橋、京橋へと先端を感じさせるトレンドエリア側へ向かうにつれて、オレンジ色の関節照明で演出された光のリボンが少しずつ明るくなっていくようにしています。

―それぞれの歴史を捉え、3駅のつながりも含め巧みに表現されていますね。デザインを行う過程で、頭を悩ませたことはありますか?

 このアイデアをかたちにするまで2ヶ月ほど時間を要したのですが、中でも時間をかけたのが歴史を理解すること。街を歩いて、先輩に話を聞いて、歴史を学び、自分なりに解釈して、デザインに落とし込みました。なかなか大変でしたが、同時にとても楽しくもありました。

時・街・物・心を詰め込んだギフトボックスを

村里 作品そのものの印象は、全体的に落ち着いたトーンでした。象徴的なものを全面的に打ち出し、派手さのある作品が多かったので、逆に印象深かったです。光の演出も魅力的なものでした。何より、「歴史+商業 PACK-AGE」というコンセプトが素晴らしいと思いました。

―商業エリアでは112作品の応募があったなかで、最終的に包さんの作品が最優秀賞に選ばれた決め手はなんだったのでしょうか?

村里 さまざまな視点で審査させていただいたのですが、最も評価が高かったのはやはり作品コンセプトです。銀座線の全体コンセプト「伝統×先端の融合」とも見事に合致します。落ち着いたトーンのなかで、暖かく放たれる光の演出も実際に見てみたいと思わせてくれました。

銀座線に乗ること自体が魅力的な「体験」となるように

―包さんは、今回のデザインコンペで最優秀賞を受賞して、嬉しかったことやその後の変化などありましたか?

 台湾から日本へ来る友人も多いので、私のデザインを認めていただけたことは本当に嬉しく、誇りに思います。仕事においては、これまでも伝統的なものと先端のものを掛け合わせたデザインが好きだったのですが、賞をいただいたことにより、自分が得意とするデザインが明確になったと感じています。

―最後にお二人それぞれ、新しい商業エリアに期待していることについてお聞かせください。

銀座線に乗ること自体が魅力的な「体験」となるように

 新しくなった駅が、この街に暮らす人や訪れる人たちにとって、居心地のいい空間になったらと思っています。駅の改札を毎日通る人も、初めて通る人も、ギフトボックスをもらった時のような高揚感を持って街へ繰り出し、新しい体験をしてもらえたら、嬉しいですね。

村里 地上にもっとも近い地下鉄として、街と距離が近いことが銀座線の特徴でもあります。ここから街を感じてもらい、街に繰り出したくなるような駅にしたいと思っています。単なる移動手段としてではなく、情緒的な部分で、銀座線に乗ること自体が魅力的な体験となることを願っています。完成をぜひ、楽しみにしていてください。

※銀座線日本橋駅・京橋駅の工事状況は以下の記事でレポートしています。

リニューアルで次の時代への「架け橋」となれ、日本橋駅!【工事の進捗いかがですか?】

通路の高級感が凄い! すでにアートの香りが漂う京橋駅【工事の進捗いかがですか】

徳 瑠里香(とく るりか)

書いたひと:徳 瑠里香(とく るりか)

1987年、愛知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科卒。出版社にて、書籍やWEBメディアの企画・編集・執筆を行った後、オーガニックコスメブランドのPR等を経て、独立。現在は、女性の選択と家族のかたちを主なテーマに執筆活動を行う。著書に『それでも、母になる-生理のない私に子どもができて考えた家族のこと』(ポプラ社)がある。

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